誰にも言えない
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)
※花咲く〜IF設定。
最近のカーシュには、誰にも言えない悩みがあった。
こてん、とベッドに横になって考える。
常に傍らにいるはずのヤマネコは蛇骨大佐と共に調査に出ていて今はいない。
最近、こうして一人でぼんやりすると困ったことになる。
「……っ……」
来た、とカーシュは唇をきゅっと噛み締める。ぞわりと緩い快感が腰から背筋へと流れていく。
それは次第につま先へと、指先へと、全身へと廻りはじめた。じり、と小水を我慢する子供のように脚と脚を擦り付ける。
「……ふ……」
ぎゅっと目を閉じてその快感を逃がそうとする。けれど、目を閉じたことによって余計に神経が過敏に反応してカーシュは熱い息を漏らした。
こんなの、知らない。
今までこんなことなかったのに。
まるで全身がヤマネコを受け入れるためだけの器になってしまったかのような錯覚に陥りそうなほどの、その甘い痺れ。
「は、あ、ぁ……」
シーツに体を擦り付けるように手足を伸縮させる。背中に熱が集まってきた。
「あ、あ……っ……!」
しゅるり、と煙が立ち上るようにしてカーシュの背に赫の枝が生えていく。
衣服を破ることなく現れたそれはするすると伸びていき、やがて天井に先が届くかという所でその成長を止めた。
「っは……ぁ……」
は、は、と荒くなった息を整えながらまたやってしまった、と目を閉じた。消えろ、と念じれば生えたばかりのその赫の枝はさらさらと光の粒になって消えていく。
射精を伴わない絶頂に、赫き枝の開放を付け加えると絶頂感が増すと気付いたのはいつだったか。
ヤマネコは、炎の力によって欲を駆り立てられているのだと言っていた。だから発情しやすいのだと。
ヤマネコと繋がりたい、交わりたいという欲求が自分の最たるものだと知った時は羞恥心で蒸発してしまうかと思った。
それほどに、自分はあの男を求めているというのか。
こんなこと、誰にも言えない。じくじくと体が本物の質量を求めて疼いている。
早く、とカーシュはシーツを握りしめる。
早く、帰ってこい。
この飢えを満たせるのは、ただ一人なのだ。
***
カーシュの自慰を書いてみようと思ったらこんなことになった。あれ?
モラルに逆らうというリスク
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)
※花咲く〜IF設定。
理性なんて、途中からどこかに吹っ飛んだ。
あ、あ、と言葉を成さない音だけがカーシュの唇から洩れる。
時折、ヤマネコ、と彼の名を呼ぶだけで、あとはもう彼に翻弄されるがままだ。
一体いつから、とカーシュは思う。一体いつから、自分はこんなイヤラシイ体になってしまったのか。
炎の影響だと、暫くすれば治まるとヤマネコは言ったが、ここ一か月ずっとこんな調子だ。
他の誰かといるときは良い。注意がそちらに向いているからかなんともない。
けれどヤマネコと二人きりになったり、一人でいたりするともう駄目だ。
腰のあたりからそろりそろりと痺れにも似た快楽が滲み始める。思い出せ、と言う様に。
カーシュはそれに逆らえない。それもそのはずだ、炎はカーシュの欲を増幅させているだけなのだから。
それはカーシュ自身が世界を変えるより、歴史を辿るより、そんな事よりもヤマネコに抱かれたいと思っている、ということで。
余り認めたくはないが、事実だとカーシュは知っている。
ヤマネコと主従関係を結んでいた頃は一方的な関係だった。
ヤマネコが抱きたい時に抱きたいように抱く。そこにカーシュの意思は必要なかった。その行為は、心身ともにカーシュを傷つけた。
けれど今は違う。
ヤマネコとカーシュの間に主従という関係はなくなり、お互いがお互いの番う相手となった。
それからのヤマネコはカーシュを抱くときはカーシュの快楽を優先しているようだった。
今までの償いというわけではないだろう。そんな性質ではないと知っている。
けれど、だからこそわかるのだ。自分は今、彼に愛されていると。
淡い恋心しか抱いたことのなかったカーシュにとって、ヤマネコのそれは頭の芯を蕩けさすような甘さを含んでいた。
それがこの身を浸食し、この状態を作り出したのではないかとカーシュは思う。
自由へと解き放たれたお互いの感情はカーシュの中で渦を巻き、それこそが快感の正体なのだと。
全てに逆らい、リスクも振り切ってカーシュはヤマネコを求めた。そしてヤマネコもまたそれに応えた。
その結果がこの愛と快楽の奔流ならば。
この体が彼を望むように作り変えられていくのも、悪くはない、のかもしれない。
***
そろそろちゃんとしたヤマカーを書こうよ。
いつか飽きられるかもしれないけれど
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)
※花咲く〜IF設定。
カーシュの中には常に不安があった。
ヤマネコがいつかは去ってしまうという不安があった。
そもそも、なぜ今、こうしてヤマネコが傍らにいてくれるのか、それが分からない。
カーシュは自分のどこが彼に気に入られているのかすら知らなかった。
ただ何となく、愛されているなあ、とは思う。
昔はカーシュに歩調を合わせるなどということは無かった。閨の中でもカーシュのペースに合わせるなんてこともなかった。
そんな風に傍若無人に振舞っていた彼が、今では真綿で包み込むようにカーシュを扱う。
あの穏やかな医者には蜜月かな、なんてからかわれたりして。
蜜月。確かにそうなのかもしれない。
漸く手に入れたものを愛でる、そんな蜜月。
けれどそれはいつかきっと終わりが来る。飽きという終わりが。
カーシュは自分がこれと言って秀でた人間であるとも、人の出来た人間であるとも思ったことはない。
そんな自分にいつまでもあのヤマネコが執着するはずがないのだ。
けれど、それでもいいじゃないか、とカーシュは思う。
この手で掴むには、彼という存在は大きすぎる。
元々叶わぬ筈の想いだったのだ。なのに彼を失いたくないという一心だけで炎を手にしたカーシュをヤマネコは受け入れた。
それだけで、良いじゃないか。
この僥倖とも言える日々をいつまでも覚えておこう。
いつか独りになった時、生きていける様に。
そう、いつか飽きられるかもしれないけれど、受け入れよう。
いつか、いつか、遠い遥か彼方で眠りに就く時に、淋しくないように。
この日々を、覚えておこう。
***
カーシュは根はネガティブじゃないかなあと思ってる。
逃がすものか
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)
※花咲く〜IF設定。
カーシュの中には常に不安があった。
ヤマネコがいつかは彼の元を去ってしまうという不安があった。
ヤマネコはそれを知っていた。知っていたが、素知らぬふりをしている。
そもそもカーシュという人間は自分というものを分かっていない。
過大評価することも過小評価することもないが、根本的な事を間違えている。
確かにカーシュは他より抜きん出て何かが秀でているというわけでも、人格者というわけでもない。
だからと見捨てると思ったら大間違いだった。ヤマネコが求めているのはそんな出来上がった人間ではない。
あの炎の孤児院ではにかんだように笑って消えた姿。一目で彼を欲した。
そして蛇骨館で彼を見つけた時に感じたあの感情の奔流。
豪胆さの陰に潜む孤独の色。白と闇、太陽と月。その両方を兼ね備えた存在。
その美しき獣をただ力でねじ伏せた。それしか知らなかった。それでも彼はしなやかに美しいままだった。
その魂の輝き。それこそが何よりもヤマネコを引き付けるのというのに。
そしてカーシュはどうやらヤマネコという男を過大評価しているようだった。
確かにかつては運命の神と呼ばれ、全てを操ってきた。
けれど今は違う。あの時、カーシュの手によって生まれ直した時にヤマネコはヤマネコでしかなくなった。
そしてカーシュがヤマネコを喪いたくないのだと彼に告げた時、彼はただの男となったのである。
カーシュと共にあるべき、ただの男へと。
けれどカーシュにはそれが分からない。ヤマネコが虐げる者から庇護する者へと変貌を遂げてもなお、過去のヤマネコを引きずっている。
そうしたのはヤマネコ自身であると理解しているので彼も何も言わない。
ただ真綿で包むようにして伝えるだけだ。愛していると。
終わりなど来るはずもない。カーシュがカーシュである限り、終わりなどあり得ない。
カーシュはいつも心のどこかで諦めている。達観している。それを拭い去ってやりたい。
けれどそれすらもカーシュを形作る重要なファクターであるのなら、実地で教えるまで。
お前と共に永遠というものを歩んでみようか。
そして知るが良い。独りの未来などあり得ないということを。
いつか遠い遥か彼方でお前が眠りに就く時にも、私はお前の傍らに在るだろう。
逃がすものか。この星が朽ちたとて。
逃がしはしない。
***
「いつか飽きられるかもしれないけれど」ヤマネコ視点。 |