花咲く丘に涙して〜IF〜
―又、嬉々として―
私の魂は永遠をおもひ
たった一枚のガラスに阻まれて、腕も、声も…届かなかった。
クロノポリス最下層にあるその扉はセルジュによって開かれ、四人は室内へと足を踏み入れた。
「漸く来たか…待ち草臥れたぞ」
「ヤマネコ!!」
薄暗いその空間の中で、彼は邪悪な笑みを浮かべながらセルジュを見つめていた。
「あっ…キッド!」
「その娘の心は眠らせてある。少々邪魔なのでね…」
セルジュが倒れているキッドの元に駆け寄り、これから戦いの場になるここから少し離れた壁際にそっと寝かせた。
「彼女の護衛はお任せ下さい」
そう微笑むイシトに、セルジュはありがとう、と礼を告げる。
「!カーシュ!!」
「え?!」
グレンの声にセルジュは彼の視線の先に目をやる。
輝く巨大な球体、その底に彼は仰向けに倒れていた。
「カーシュ!」
駆け寄ろうにも球体が邪魔をし、セルジュは分厚いガラス越しにその名を連呼する。
だが、声が伝わらないのか彼が目を醒ます事は無かった。
それでも微かに上下する胸が彼の生を示していてセルジュはほっと息を吐いた。
「あっきれた!ホントに捕まってるじゃない!」
マルチェラは腰に手をやり、バカじゃないの、と怒鳴った。
「でも、どうしてカーシュが…」
「彼奴にはまだ利用価値があるんでね」
その言葉に真っ先に噛み付いたのはグレンだった。
「貴様ッ…あれだけカーシュを苦しめておいてまだ利用するつもりか!」
その叫びで彼もまた知っているのだとセルジュは悟った。けれど何も知らないマルチェラたちは何を、という視線でグレンを見ている。
「ならば私を倒してみるがいい。「フェイト」、プロテメウスの消去、及びボディの稼働!」
『了解シマシタ』
地の底から響いてくるような低い振動は床を突き破り、異形の巨人が現れた。
絶え間無い揺れに意識が浮上する。
「……?……」
地震?と夢現の中思うと、また揺れた。
ふっと瞼を開き、赤く輝くそれを目にした瞬間、覚醒した。
「!」
がばっと起き上がって辺りを見回し、愕然とした。
仲間たちが戦っている。
何と。
あのグロテスクな巨人。
「…あの野郎…!」
ヤマネコだ。
あれがヤマネコだ。
何の根拠も無くとも、自分の直感はそれを告げる。
あの時。
――来い。
手を取った瞬間、ぐにゃりと世界が歪んで気を失った。
否、失ったと言うのは微妙に違う。
体は言う事を聞いてはくれなかったが、何処と無く意識はぼんやりとあった。
――それでも、私は……
彼は何と言ったのだろう。
その頃には完全に意識を失ってしまった。
けれど、分かった事はある。
「…ックソ!!」
恐らく特殊なものなのだろう、幾ら殴っても彼らと自分を隔てるガラスは皹一つ許してはくれない。
目の前で繰り広げられる戦い。
自分は何も出来ない。
「っの…ヤマネコ!!出せテメエ!!」
文句を言おうと聞えるはずも無く。
やがて互角を張っていた戦局が揺れ始めた。
異形の巨人の動きが確実に鈍くなって来ている。
どうなるんだろう、と不意に思った。
あれが倒されたら、彼も死ぬのだろうか。
そう考えて、ぎくりとした。
死ぬ?
誰が。
ヤマネコが?
「…だ…めだ…」
やっと、分かったのだ。
「やめろ、」
やっと、それに気付けたんだ。
「やめろっつってんだろッ、なァ!」
やっと、認める事が出来たんだ。
「頼むから、」
裏切り者だと罵られたって構わない。
「死なないでくれ」
彼を、失いたくないのだ。
けれど、戦いは終りを告げる。
異形の巨人は仰け反り、やがて倒れ伏した。
「ヤマネコ!!」
駆け寄る事も出来なければ、声も、手も届かない。
「ヤマネコ!ヤマネコォ!!」
力が欲しい、そう思った。
世界を滅ぼすとか、そんなんじゃなくて。
たった一枚、この透明な壁を壊すだけの力で良いから。
力が、欲しい。
「バカ!やめるんだカーシュ!」
キィィィン…と耳鳴りのような音がする。
泣いている、と思った。
音は一層高くなり、聴覚で捉えられない音域で泣き響く。
力だ、と感じた。
そう、この力。
この透明な壁を壊す、力を。
力を。
(続く)
+-+◇+-+
短!!いや本当はこの倍は入れてやろうと思ってたんですけど、話の流れ上ここで区切るしかないなあ…と。
いやもう次の展開がバレバレです。ベタベタですね、この話。
良いんです。私が楽しければそれで。(開き直り)
(2003/02/04/高槻桂)