アムロ祭り、ログ
(09/01〜09/10)
9月1日の花:キキョウ=変わらぬ愛
シャアム(CCA後)
ああ、もうそんなに経ったのか。
「え?何が?」
隣りで雑誌を捲っていたアムロが私を見上げた。
どうやら声に出ていたらしい。
それともアムロが感じ取ったのだろうか。
「君と出会って、もう十五年も経ったのだと思ってね」
アムロは少しだけ目を見開き、そして柔らかく笑った。
「そうだよ。俺はあの頃の倍を生きた」
多くの戦いがあった。
出会いも別れも駆け足で過ぎていった。
だが、どうだろう。今の私たちは。
ずっと手を差し伸べては振り払われ、命を削りあってきたというのに。
つい一年前にはあの灼熱の大気圏で死を受け入れたというのに。
「それでも今、私たちは一緒にいる」
それは素晴らしい事だと思わないか?
けれどアムロは一瞬にして呆れたような表情へと変わった。
「たったの十五年でスバラシイわけないだろ」
私は腕を伸ばしてアムロの柔らかな髪に指を絡める。
「では、どれくらいが君のレベルなんだい?」
「一生」
さらりと短い応えに、私は堪え様の無い歓喜に突き動かされる。
「アムロ」
私は身体の向きを変え、アムロを抱きしめた。
そしてアムロにだけ聞える声で、そっと想いを囁いた。
9月2日の花:マーガレット=恋占い
フォウ、ロザミィ、カミーユ&シャアム(SRW)
カミーユはきゃあきゃあと騒ぐ知った声に足を止めた。
人も疎らな食堂の片隅に、やはり思った通りの人物がいた。
「フォウ、ロザミィ、何してるの?」
「カミーユ!」
「お兄ちゃん!」
カミーユは二人に近付き、彼女らが見ていた雑誌を覗き込んだ。
「…恋占い?」
開かれたページは可愛らしいレイアウトで恋占いに付いて語られていた。
「お兄ちゃんもやる?面白いよ!!」
ロザミアはカミーユの腕を引いて強引に座らせる。
「カードを使って占うのよ」
ほら、とフォウが何枚ものカードをカミーユに見せる。
どうやらタロットの簡略版の様なカードだ。
「えーっとカミーユはぁ…」
フォウが雑誌の説明通りの手順でカードを混ぜ、並べていく。
「これが健康で、こっちが金運、それでこの二枚が恋愛運なの」
フォウの並べたカードをロザミアが捲りながら説明していく。
「一枚目がぁ『初恋の人』で二枚目が…『事故』?」
「何だろう?うーん…『初恋の人の危機』?」
二枚のカードの意味を組み合わせたフォウとロザミアが首を傾げる。
「初恋の人の…危機?まさか…!」
途端、カミーユは椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上った。
「あンの腐れ彗星かー!!!」
カミーユは凄まじいスピードで食堂を出ていった。
「アムロさん!今助けに行きますからー!!!」
向かうはアムロの部屋である。
9月3日の花:マーガレット=心に秘めた愛
アムロ→フラウ(アムロ軟禁時代)
フラウ、僕の大好きなフラウ。
ずっと大好きだよ。
だから、僕を見ないで。
「アムロ様」
扉の向こうから聞えて来た女の声。
またか。
アムロはうんざりとした表情を浮かべた。
「入れ」
静かに扉を開けて入って来る気配。
視線を上げ、その姿を認めた途端アムロはその表情を険しくした。
「悪いけど、帰ってくれないか」
女が何かを言うより早くアムロは女から視線を外した。
これ以上見るのも嫌だと言わんばかりだ。
「アムロ様、どうして…!」
「帰れと言っている」
苛立ちを含んだ声音に彼女は身を竦ませ、慌てて部屋を出ていった。
今夜アムロに宛がわれた女は、どこかフラウ・ボゥに似ていた。
(フラウ…)
その名を口にする事も出来ない。
盗聴器の向こう側の奴等に、彼女の名を聞かせたくなかった。
ああ、フラウ、僕の大好きなフラウ。
今、君は何をしているのだろう。
子供たちに囲まれて笑い声を上げているのだろうか。
お願いだから僕の大好きなフラウ。
どうかそのまま幸せに。
どうかこんな僕の姿を見ないで。
僕の大好きなフラウ。
君の中の僕が、今でも昔のままであります様に。
9月4日の花:葡萄=陶酔
シャアム←マシュマー(パラレル)
……。
「ああ、何という罪深さ…!」
…スミマセン、
「私には既にハマーン様と言う心に決めた方がいるのに!」
帰っても良いでしょうか…。
「アムロ・レイ!その玲瓏たる響きが私を狂わせる…!」
「……あっそ」
アムロは深い溜息をアスファルトに叩き付けた。
だがそれすら気付かずマシュマーは語り続ける。
(…帰りたい…)
かれこれ三十分はこの調子だ。
一輪の薔薇を手に只管ハマーンとアムロに付いて語る。
こんな歩道のど真ん中で。
通行の邪魔にはならなかったが通りすがりの人達の視線が痛い。
だからと逃げようとすればがっちり引き止めて放さない。
ああ、小腹が空いた。
そろそろ日が傾き始め、空は赤味を増してくるだろう。
どうしたものかと辺りに視線を巡らせる。
(あっ)
車道をこちらに向かって走ってくる真っ赤な車が一台。
見覚えのある車にアムロは内心でガッツポーズ。
車がアムロの居る歩道へ寄せられると同時にアムロは一歩前へ踏み出した。
「ええと、ミスター・セロ?」
僅かに笑みを浮かべてマシュマーを見上げる。
「マシュマーと呼んで欲しい、アムロ」
突然キリリと表情を改めたマシュマーの手からすいっと一輪の薔薇を取上げる。
「じゃあ、マシュマー」
にっこりと笑い、アムロは手にした薔薇を
「いってらっしゃい!!」
思いっきり投げ飛ばした。
「ああ!!」
ハマーン様から頂いた薔薇が!!
マシュマーが薔薇を追いかけると同時にアムロは素早く赤い車に乗り込んだ。
「逃げるよ、シャア!」
9月5日の花:ケイトウ=情愛
ジュドー&アムロ(SRW)
「アムロ大尉!」
愛機の整備中、下からの声に視線を向けるとジュドーが手を振っていた。
「ちょっと良いですか?」
「良いよ。今降りるから」
リフトの昇降ボタンを押し、アムロはジュドーの元に降り立った。
「ダブルゼータの調子がおかしいんです」
でもアストナージは何とも無いって言うし。
「どんな風におかしいんだい?」
「それが…」
ジュドーの身振り手振り付きの説明をアムロは相槌を打ちながら聞く。
そして
「ああ、そういう事」
と僅かに微笑んだ。
「君の反応に機体が付いていけなくなって来てるんだよ」
「てことは俺が強くなったってこと?」
「そういう事だね」
「おっしゃあ!俺ってすげえじゃん!」
「ブライトに頼んでおくよ。スーパー系ばかりじゃなくこっちも改造しろって」
その言葉にはしゃぐジュドーからアムロはそっと視線を外して伏せた。
自分とは大違いだとアムロは思う。
WBに居た頃、アムロは戦う度に強くなっていく自分が怖かった。
今でもその思いは心の底で燻っている。
だから、純粋に喜べるジュドーが羨ましくもあり、柔らかな情愛も頂かせた。
「ジュドー」
「あっ、はい!」
じっと自分を見詰めてくる視線にアムロはふわりと笑った。
「良かったら休憩に付き合ってくれないかな」
ジュドーはその微笑みに恍惚とした目眩に襲われる。
だが慌てて気を入れ直し、「喜んで!」と声を上げた。
9月6日の花:ゼニアオイ=母の愛
アムロ、コウ(SRW)
コウが食堂で夕食を採っていると、すっと隣りに誰かが座った。
「コウ」
「あ、大尉」
アムロだ。
アムロも当然コウと同じメニューだ。
ただし、量はコウの方がさり気無く多いのだが。
「ところで」
白パンを千切りながらアムロが切り出した。
「今日の整備、途中で放り出して来たね?」
ぎくっとコウのフォークの動きが止まる。
「アストナージが怒ってたよ?」
「だ、だってお腹空いて…」
アムロは決して怒っているわけではない。
表情も微かな微笑みを湛えていて、怒りは微塵も感じない。
だからこそ、コウは申し訳ない思いに囚われた。
けれど本日は朝食を食べる間も無く敵襲。
敵を一掃して帰艦したのがつい先程。
時間は既にいつもの昼食時間すら過ぎていて。
コウにそれは余りにも辛い。
思わず損傷個所のチェックだけ終えて食堂に駆け込んだのだ。
「うん、気持ちは分かるんだけどね」
でも、整備士に迷惑かけちゃあ駄目だよ?
「ごめんなさい…」
「あと、それ、残したら駄目だからね」
それ、と指差す物へと視線を向け、コウは泣きそうな顔になった。
「ど、どうしても?」
指の先には、数切れのキャロット・グラッセ。
「どうしても」
問答無用の笑顔。
「うぅ〜〜…」
コウは唸り声を上げながら人参を見下ろしている。
するとアムロはくすくすと笑いながらコウのフォークを取上げた。
「仕方ないなあ」
人参を刺したフォークをコウの口元へ持っていき、
「はい、あーん」
コウは差し出されたそれを数秒唸りながら見ていたが、意を決してぱくっと食べた。
「〜〜〜〜!!」
碌に噛まずに飲み込むと、また一切れ差し出される。
それを何回か繰り返し、全部食べきる頃にはコウの気力は尽きかけていた。
「はい、よく出来ました」
だが、アムロに頭を撫でてもらった途端に復活し、にへらっと笑った。
9月7日の花:おおけたで=純潔
クェス、アムロ(CCAパラレル)
「アムロ!」
クェスはアムロの腕の中へと飛び込んだ。
「クェス、どうしたんだい?」
アムロは驚く事無くクェスを受け止めて微笑む。
離れた所でチェーンが睨んでいたがクェスは無視を決め込んだ。
「今日、一緒に寝ても良い?」
クェスの発言に周りのメカニックたちがぎょっとした視線を向けるのだが、
「シャワーは済ませてくるんだよ?」
当の本人達は当たり前の様に会話を続けていた。
「うん!」
「ちょっと、クェス!」
すると案の定チェーンが割り込んで来た。
「何よ」
クェスはむっとしてチェーンを見上げる。
勿論、アムロには抱き着いたままだ。
「もしここで恋人気取りな事言ったら、あたし貴方を軽蔑するわ」
チェーンが何か言うより早くクェスはそう切り捨てる。
「あたしはアムロの恋人じゃないけど、あなただって違うわ」
それくらいわからないの?
「クェス」
やんわりとしたアムロの嗜めにクェスは唇を尖らせた。
「だって、むかつくんだもの。汚い目でしか見れない大人って」
アムロは苦笑してクェスから体を離した。
「さあ、シャワーを浴びておいで」
ぽん、とその背中を押してクェスを通路へと送り出し、アムロもそれを追う。
「アムロ!」
チェーンはクェスの言葉を否定して欲しくてアムロの背に呼び掛ける。
だが、アムロは肩手を上げただけでその歩みを止めようとはしなかった。
9月8日の花:コルチカム=私の最良の日は去った
アムロ→フラウ(1st)
白い流星とか、白い悪魔とか。
気付いたらそんな風に呼ばれていた。
WBのみんなは僕の前でそれを口にする事はなかったけど。
たまに、噂話をしているのを耳にした事がある。
余り、好きじゃない。
MS乗りがあだ名を付けられるのは、大抵、
「僕は何人、人を殺したんだろう」
罪に問われる事の無い大量殺人を犯した証。
ああ、フラウ…どうしてこんな事に…
君が持って来たサンドウィッチを食べながら機械を弄っていた頃。
君に不摂生だと叱られて、僕は肩を竦めていた。
ああ、何でも無い事が一番幸せなんだって、今なら分かる。
これから後、どんなに辛い事があっても、幸せな事があっても。
きっと、あの頃に変わる日々は訪れないだろう。
9月9日の花:ホウセンカ=私に触れないで
クワアム(Z)
腕を引かれ、意に反して彼の部屋へとアムロは歩みを進める。
「大尉、クワトロ大尉、放して下さい」
けれどアムロの訴えは無視された。
クワトロは自室の前に辿り着くと暗証番号を打ち込む。
甲高い機械音と共に扉が横滑りして開かれた。
「入りたまえ」
入りたまえも何も無い。
彼はアムロの腕を引いて歩いているのだから。
必然的に彼が室内に向かえばアムロも続く。
「何の用ですか」
視線を逸らしたままぶっきらぼうに告げる。
するとクワトロの口から今更、と微かな声が漏れた。
ぐいっと腕を引かれる。
「っ大尉!」
抗議の声を上げてもクワトロは構わずアムロを抱きしめる。
「やめてください、大尉」
頑なに繰り返すアムロにクワトロは小さく笑った。
言葉だけだな、と。
アムロは視線を伏せ、あなたが、と小さく呟いた。
「あなたが触れるからいけないんだ…」
クワトロの手がアムロの頬を包み込む。
「貴方が触れなければ、僕は独りで居られたのに…」
苦しげな表情を浮かべるアムロの唇に、クワトロはそっと唇を落した。
9月10日の花:オミナエシ=美人
シャアム(CCA後)
「……」
新聞を読んでいると、アムロの視線が突き刺さった。
「……」
シャアは始めこそ気にしていなかったのだが、
「…………」
ずーっと見詰めてくるアムロに耐え切れず、シャアは紙面から視線を上げた。
「アムロ?」
「うん?」
「どうかしたのかい?」
アムロはソファの上でクッションを抱えながら「うーん」と気の無い唸り声を洩らす。
「あなたの顔に傷が付かなくて良かったなーって」
それは喜ぶべき事なのだろうか。
「俺、あなたの顔が一番好き。綺麗だし」
「…そうか」
やはりどこか素直に喜べない。
「顔だけかい?」
私はアムロの全てが好きなのに。
するとアムロは「バーカ」とこれまた気の無い声を洩らした。
「『一番』って言ったじゃん」
「なら、二番目は?」
するとアムロはぷいっとそっぽを向いて立ち上る。
「喉乾いた」
そして抱えていたクッションをシャアへと投げつけてキッチンヘと向かう。
「アムロ?」
クッションを受け止めて傍らに置くと、アムロの吐き捨てる様な声が聞えた。
「全部に決まってるだろ」