DEAR MYSELF





フェイトを倒した。
(倒してしまった)

コレハ、敵。

敵なんだ。倒すべきモノ。だから倒したのだ。

後悔なんて……

「…………」
セルジュは横たわる自分の体を一瞥すると、フイッと踵を返した。
「帰ろう、みんな」


カーシュとマルチェラはフェイトを倒した事の興奮がまだ収まらないのか、バトルの事を話しながらセルジュの前を行く。

――………セルジュ………

(呼んでいる…?)
セルジュはぴたりと足を止め、きょろきょろと辺りを見回す。
「どうした?小僧」
カーシュが立ち止まったセルジュに気付いて振り返る。

――セルジュ……

「セル兄ちゃん?」
「…呼んでる…!!」
「セルジュ?!」「セル兄ちゃん?!」
セルジュはくるりと踵を返し、二人の声を無視して来た道を駆け戻って行った。





セルジュが向かったのは、先程までフェイトと戦っていた最下層にあるメインコンピューター室。
その冷たい床の上に倒れている自分と同じ身体は、もう開かれる事の無い筈のその紅の瞳で三人を見つめていた。
「まだ生きてやがったのか?!」
「待って!!」
カーシュがアクスを構えようとするのをマルチェラが止める。
「マルチェラ?!」
「見て、悪意は感じられないよ」
赤い瞳の「セルジュ」はゆっくりと立ち上ると、信じられないといった表情で立ちすくんでいるセルジュの頬を、優しく包み込むように両手で触れてくる。
「…この子を死なせて…後悔、しない…?」
その表情はあの、彼特有の邪悪さは無く、どこか母や姉を思わす表情だった。
「誰なんだ、あなたは」
「セルジュ…セルジュ、おかえりなさい……セルジュ…あなたの死には意味があり、あなたの生には意義がある……」
優しさと哀しみをその赤い瞳に湛えた「セルジュ」はふわりと消えそうな笑みを浮かべる。
「おかえりなさい……そして……いつか、迎えに来て……私のクロノトリガー……」
ぐらりと、まるで糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちるその身体をセルジュがしっかりと抱き留めると、「セルジュ」は微笑んだようだった。

――私の様に、後悔、しないで……






私は死んだのか……そうか……私の役目はここまでという事か……

――………イト……

……声……?

――フェ…ト…目を…覚ま…て…

煩い。私の役目はもう終ったのだ。私に構うな。

――起きて……

起きる?どうやって。私はコンピューターだ。そんな生き物の様な事は出来ん。

――違うわ。あなたは、もう人間よ

違う。私は「運命」。ヒトとしての形は持たない存在。

――そうかしら…私には人間に見えるわ

……私が?

――ええ。あの子と同じ姿をした、ヒトに。

あの子…?同じ……?
……ああ……あいつか………

――機械は「心」を持たないわ…でも、あなたは「心」を持っている…

……だが私は……今までの様に自分を抑えられる自信が無い……

――……あの子が、愛しいのね………「セルジュ」が?それとも……「息子」が?

ワヅキの意識はもう無い…データとして探りはしたが…引きずられはしなかった。………私自身の想いの方が勝ったのだ……

――ホラ、もう人と変わり無いじゃない。でも忘れないで…あなたはその肉体をあの子から奪ってヒトとなったの…だから、その肉体の分、生きなきゃ駄目…あの子を哀しませないで……

…………………………私は……





「フェイト!!」
重い瞼をゆっくりと開くと、間近で蒼い髪の少年が自分の瞳を覗き込んでいた。
「…どこだ、ここは」
「天下無敵号の客間だよ」
少年はその瞳に安堵の色を浮かべるとスッとフェイトから顔を離す。
「よかった、目覚めて…あ、みんなにはこの部屋に近づかないように言っておいたから」
「……何故私はまだ生きているのだ」
「えっと……」
セルジュは少々考え込んだ後、あの時の事を告げた。
(……「私のクロノトリガー」……)
セルジュの事をそう呼び、尚且つセルジュの肉体に意識を飛ばせられるのはフェイトの知る限り、一人しかいない。
まさか、と思う。彼女は今、捕われている筈だ。
(だが……)
先程自分に接触してきたのもきっと彼女だろう。そして何よりセルジュは彼女が選んだ『時の引き金』なのだ。彼女が入れたとしても不思議はない。
「……あの小娘……余計な事を………」
「誰?」
フェイトは本音をつい洩らしてしまった自分に舌打ちし、はぐらかす様に視線をセルジュと合わせる。
「っ…」
セルジュはその視線に捕らえられたかの様にびくりと肩を揺らすと、慌てて視線をそらした。
「……何故私を助けた」
フェイトの問いに、セルジュは反らした視線を再び合わせると「後悔したくなかったから」と小さく呟く。
「後悔?」
「…フェイトに死んでほしくなかった」
「ほう?」
フェイトは少々痛む身体をゆっくりと起こし、セルジュの胸倉を掴んで引き寄せる。
「お前が?敵であり、お前の肉体さえも奪ったこの私を?」
「それでも、側に、いて欲しかった」
迷わず言い返すセルジュに、フェイトは小さく舌打ちすると彼を掴んでいる腕を更に引き寄せ、そのままベッドの上に押し倒す。
「ぅわ!」
「そんな言葉、私が信じると思っているのか」
その紅い瞳が嘲りの色を浮かべた。



「フェイ……く、ふぅ……フェイ、ト……」
両脚を高く抱えあげられ、ろくに慣らされていない後部を無理矢理貫かれたセルジュは痛みに壊れたオルゴールのように、一つの名を繰り返し呼ぶ。
「あ、ぁう……ふぇ、いとぉ……」
その印象深い蒼の瞳をきつく閉じたまま。
「……っ…セルジュ…これはお前が招いた事…私を生かしておくからだ。愚かな……」
セルジュはフルフルと首を振り、愚かじゃない、と掠れた声で呟く。
「何しても…いいからっ…酷くしても、い、から…っ…傍に居て、ぇ…」
「……強情な」
フェイトは忌々しげに舌打ちすると、再びその血で滑っているそこに激しく腰を進める。
「あ!あ、あっ、んん!!」
セルジュが痛みから逃れようと腰を引こうとする。フェイトはそれを許さずにセルジュの腰を掴み、更に深くそこを抉る。
「いっ…ぅあああ!!」
セルジュは折れそうなほど背中を反らし、痛みだけのその行為に嫌々をするように首を激しく振る。
「……セルジュ……」
セルジュ自身には聞こえないくらい小さな声で名を呼ぶと、フェイトはその血に汚れた熱い体内に熱を放つ。
「……やっ…!」
体内に放出された熱と、貫いていたものをずるりと抜かれた不快感にセルジュは眉を顰めたが、行為が終わりを告げたことに安堵したのか身体の力を抜く。
と、その途端、視界が見る間にぼやけ、我慢していた涙がぼろぼろと溢れ出す。
「ぅ、ええぇぇぇ……」
「セ、セルジュ?」
突然顔を両手で覆って大泣きしはじめたセルジュに、さすがのフェイトも慌てる。
「…うして…どうして信じてくれないのぉ……」
「ちょ、おい、セルジュ……」
しゃくりあげながらたどたどしく、まるで幼子のように泣きじゃくるセルジュにフェイトは数秒慌てふためいた後、宥める様に抱き締めてやる。
「フェイト!」
セルジュはその背に腕を回し、何度も「信じて」「嘘じゃない」と喚く。
「分かったから…もう泣くな」
「う……」
ぴたりと止まった泣き声。フェイトは大きなため息を吐きながら、その涙でぐしゃぐしゃになった目元にそっと口付けてやる。
「僕はもう自分を偽っていたくない…傍に居て……」
そう言うと、セルジュは極度の疲労からそのまま沈むように眠ってしまう。
「……………」
フェイトはセルジュを包み込むように抱くと、顔にまだ涙の残る少年の寝顔を見つめ、再び大きなため息を吐く。
(あの女め…私の欲を知っていながら「哀しませるな」などとよく言ったものだ)
それでも、自分がこの少年の傍に居ることが、この少年を一番哀しませない方法なのか。
フェイトは、さてどうしたものかと言った表情で幾度目かのため息を吐く。
セルジュが起きるまでに姿を消すか。
それともこの温もりをずっと抱いていくか。
さて、どうしたものか。






(END)

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……結局はバカップルじゃん、アンタら……。そしてサラさん…あんた何しに来たん?アンタは『フェイト×セルジュを応援する会』会長さんかい?是非俺も入れてくれ。はっ!そうじゃないっ!!あざか様、こんなバカップル話になってしまいました。どうぞ高槻を思う存分シバいてやって下さい!!そして800HITありがとうございました!!
(2000/06/09/高槻桂)


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