大きな足跡を辿る小さな足跡





何故だ。
術は成功したというのに。
私の愛したザナルカンド。
愛する民と、愛しい我が子の未来が溢れて居た筈の都。
それを無くしたくなくて、この街を造り上げたというのに。
それなのに、私の愛しい子はいない。
何故。
何が足りないというのだろう。
何が間違っていたのだろう。
他の者たちはこの街で第二の人生を歩み始めたというのに。
お前だけが未だ深く眠り続けている。
お前無くして私はこの孤独に耐えねばならぬのか。
それが、私への罰だというのか。
否、例えそうだとしても、私は逢いたい。
どうすれば。
どうすれば、お前は夢を見てくれるのだろう。

産まれ出きっかけを作れば、お前はこの街に降立ってくれるのだろうか。

ならば母体を。
お前が産まれ出為の母体を。
そして、私がその手を引こう。
私は此所から出る事は適わないけれど。
待っていておくれ。
必ず、迎えに行く。
例えどれほどの時が流れようと。
必ず迎えに行くから。
だから、産まれておいで。
今度こそ、戦火の起きぬ街に。
召喚士も、寺院も。
何も無い、平和な街に。

その街で育つ、お前の健やかな姿を。
私に見せておくれ。








物心が付く頃には、アリスはとっくに俺の傍に居た。

『はじめまして、ティーダ。私は…アリスって呼んで?』

それが、ファーストコンタクト。
今でもあの声はよく覚えてる。
柔らかくて、暖かくて、優しい声。
ほっとする声だなって思った。


『ねえ、ティーダはアーロンさんの事嫌いなの?』
アリスはいつも唐突に声を掛けてくる。
「……嫌いとかより、変な奴、ってカンジ。アリスはアイツの事どう思う?」
『うーん、とても優しい頑固者、かな?』
「あー、確かに頑固そうだけど、優しい?ん〜…イマイチよくわかんない。第一怪し過ぎ」
『あの人は、信じても良いと思うんだけどなぁ』

アリスが言うと、本当にそうなんだろうな、と素直に信じる事ができる。

けれど、アリスはそれはダメだと釘を刺した。
『これは、私の意見だから。ちゃんとティーダがアーロンさんと接して決めないとダメだよ』

アリスは凄いと思う。
しても良い事や悪い事、色々な事を教えてくれる。
小さな事から大きな事、俺のわかりやすい様に話してくれる。
大切な、友達。
けど、いつも俺の傍に居てくれるってわけじゃない。
一日に数回、ぽつりぽつりとやってくる。
だから、俺が廃港ででっかい魔物と会ってるのも最近になってやっと知ったみたいだった。

『ダメ、ティーダ。あれに近付いたらダメだよ』
「何で?悪いことしないよ?どうして駄目なの」
それでもアリスはとても固い声で何度も俺を説得する。
『理由は話せないの。ゴメンね。でも、お願い』
必死の声音でそう言われてしまえば俺に拒否権はなくて、挨拶だけさせて、と言うのが精一杯だった。

『ごめんなさい、ティーダ』

アリスのその声を聞いた途端、頭ん中真っ白になって。
それっきり、俺はあの大きな魔物の事はすっかり忘れてしまった。







『ジオラマ・ガーデン』に初めて降立ったティーダを迎えたのも、アリスだった。
勿論ティーダはそんな事知らなかったから不思議そうに目の前の女性を見上げていた。
長い茶髪を一つに結い上げた、ピンクのロングワンピース姿の女性はティーダを見てにっこりと笑う。
「こんにちは、ティーダ」
その聞き馴れた声に、ティーダは目を真ん丸にして驚いていた。
「もしかして、アリス?」
「ピンポーン♪ここでなら、私は自分の姿を保てるの」
綺麗なアクアマリンの瞳を細めて笑うアリスは、声と同じで柔らかく、優しくて暖かかった。
「改めて、宜しくね」
繋いだアリスの手は、その瞳や微笑みと同じでとても暖かかった。










(2002/06/12/高槻桂)

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