大きな足跡を辿る小さな足跡





冗談キツイッス。
ザナルカンドは千年も昔に滅びましたーって?
じゃあ俺は何。
ザナルカンドで生まれて、育った俺は何なワケ?
「シン」の毒気?
それの所為でそう思い込んでるだけなのか?
でも、だったら何でザナルカンド以外の記憶は無いんだ?
いつだって、俺の帰る場所はザナルカンドの東Dブロック1811。
ずっと、そうだったんだ。
それが夢?
アーロンも、オヤジも母さんも、アリスも…。
「そうだ!アリス!!」
アリスさえ目を醒ましてくれればわかる筈だ。
それまで…。
そこまで考えて、ハッとした。
もしリュックの言ってる事が本当なら、アリスも居ない…のかもしれない。
本当は俺の中にアリスは居なくて、だから何時まで経ってもアリスが話し掛けてくるなんてことが無い、とか…。
「や、でもあの遺跡で確かにアリスは…!」
自分に言い聞かせるように口に出してみて俺はあれ?と首を傾げた。
暗い海で眼が覚めて、遺跡みたいな所の外でバケモンに食われ掛けて、そっから何とか遺跡の中へ逃げ込んで…それで……何だっけ。
寒くて、火を起こそうと思ってたのは覚えてる。
で、あちこちうろついて、火打ち石を見つけて……あれ?
それから俺、どうしたんだっけ。
気付いたら広間みたいな所で寝てて、火もちゃんと焚いてあった。
俺、火、付けたっけ?
??
…でもまあ、あの時は結構混乱してたし(今もだけど)。
でも、その時にアリスと何かあったような気がするんだけど…でもアリスが目を醒ますには早いし。
それこそ、夢でも見たのかな。
…まいっか。
それより、問題はザナルカンドだよ!
千年前に滅びたってのが本当なら、まさか俺、千年の時を超えたってか?
「ハッ、信じられるかっつーの!!」
勢い余って壁を蹴り飛ばしてしまった。
物は大切にしましょうってサリ先生が言ってた。ゴメン先生。

「うわっ!!」

突然船が激しく揺れた。
え、何、もしかして俺の所為?!
「「シン」!」
「「シン」ダルウボ!」
慌てて飛び出して来た男たちがそう叫んだ。
(「シン」!?)
海へ視線を向けると、ばっ!と水柱が上がった。
「ヤキサシミウボ!!」
男がそう叫ぶと同時にまた船が大きく揺れた。
海水が、まるで生物のように甲板に流れ込んでくる。
「ぅわっ!!」
咄嗟の事で俺は何処にも掴まる事が出来ず、あっという間に波に攫われてしまった。



「ハンガッサンガ…(何だったんだ…)」
静まり返った海を男達は呆然と眺める。
「「シン」ダハシコキセミアハミハンセ(「シン」が何もしていかないなんて)」
「シン」は何より機械を嫌うと言われている。
その「シン」が姿を現わしておきながらこの連絡船に危害を加えず立ち去るなど。
あの子供だ!と一人が声を上げた。
「ワオイゴコガ!タマニワオイゴコママモノガッサンガ!ガアナ「シン」ダツアネシチサンガ!!(あの子供だ!やはりあの子供は魔物だったんだ!だから「シン」が迎えに来たんだ!!)」
男の言葉に仲間は沈黙した。
確かに、あれだけの高波に飲まれたと言うのに、こちらに被害は一人も居ない。
あの少年だけが、まるで呼ばれた様にその身を波に攫われてしまった。
「…ソシアル、ミヤオフヒシホームケコゴウボ(とにかく、今の内にホームへ戻るぞ)」
男達が次々に中へ戻っていく中、リュックは少年の攫われた海を食い入るように見詰めていた。
「ティーダ…」
やはり、その海面に彼の姿はない。
『リュック!マタルハアケマミエ!(早く中へ入れ!)』
「……」
スピーカー越しの呼び声に、リュックは名残惜しげに中へと戻っていった。









(2002/06/20/高槻桂)

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