大きな足跡を辿る小さな足跡





吃驚仰天とはまさにこの事。
召喚士って女の子だったんだ…。
だってさ、寺院にあるでっかい石造、一人を除いて(その女の人が一番最初の大召喚士らしい。誰かに似てんだよな。サリ先生?違うし。ナタねえ、レミねえ、ラグ、ラジ…違うなあ…まいっか)男ばっかりじゃん。(後で剣を持った像は女の人だとワッカが教えてくれた)
とにかく、あんな俺と同い年くらいの女の子が召喚士だなんて(とは言っても実際召喚士が何をするのかなんて良く分からないけど)思いも寄らなかったんだ。
で、召喚士にはガードってのがいて、ワッカはその一人なんだってさ。
ちょっと意外かも。
あとはルールーって言うナイスバディだけどおっかない感じのお姉さま。
それと、名前はわかんないけど…何だろ、狼みたいなライオンみたいな、そんな感じの…獣人って言うのか?(昔アリスが教えてくれた)額に角が生えてて、(折れてるっぽいけど)毛並みは蒼色で、それが綺麗だなーって思った。
周りの視線が痛いと思いながらも寺院から出ると、広場でワッカがこっちだ!と手を振っていた。
「よっく見てろよ!」
とか言いながらワッカの腕は俺の顔を絞めてるから無理。
「見えねえっつうの!」
わーりぃわりぃ、と笑いながら腕を放し、ワッカがあの召喚士の女の子に手を振った。
「いいぞ!」
「はい」
彼女は杖を手にふっと体を揺らした。
「ぅわ…」
瞬間、彼女の周りに光が生まれ、何かの模様を描きながら空へ登っていく。
おお、と辺りから声が上がった。
空から極彩色の巨鳥が現れたんだ。
俺が「召喚獣」を初めて目にした瞬間だった。
「すっげえ…」
知らず声が漏れた。
ばさり、と羽音を立ててそれは彼女の前に舞い下りる。
不思議と、あの子が危ない、とかは思わなかった。
彼女は恐る恐る手を伸ばして、その召喚獣の首筋を撫でるとそれは猫みたいに喉を鳴らした。
そこで、目が合った。
「え?」
自分の背後に視線を定めたまま動かなくなった召喚獣に、彼女は振り返る。
召喚獣は、俺を見ていた。
(何だろう…)
女の子や村の人、ワッカまで俺に注目する。
けれど、それが気にならないくらい俺はその召喚獣に意識が向かっていた。
(何だろう、懐かしい感じ…)
射るような色ではなく、懐かしいものを、親しい相手を見るような、そんな視線。
召喚獣の眼は人のそれとは違っている。けれど、その眼差しを自分は良く知っているような気がするんだ。
足は、無意識に召喚獣へと向かっていた。
ワッカが何か言った様な気がする。
(お前、俺の事、知ってるのか…?)
召喚獣はそれに答えるように、そっと俺の体に頭を擦り付けて来た。
ああ、やっぱ、俺、知ってる。
そっと、さっき女の子がやったみたいに撫でてやるとそいつは嬉しそうに目を細めた。

――おかえりなさい

「え?」
不意に聞えた声に撫でる手を止めると、召喚獣はばさり、と羽ばたいてそのまま空へと消えていった。
今の声、誰だったんだろう。
もう一度聞けばわかりそうだけど、何せ突然の事だったからはっきりと声を覚えていない。
ただ、女の声で「おかえりなさい」そう言われたのは覚えてる。
「おいおいユウナ、どういう事だ?」
ワッカが近寄って来て女の子にそう聞いた。
ユウナっていうのか。
「それが、私にもよくわからないの。召喚獣に好かれる召喚士は稀にいるけれど、他の召喚士に呼び出された召喚獣が他の人に懐くなんて事……」
どうやら俺、またおかしな事したとか?
辺り一面ざわめきの海。
あっちゃー、やっちゃった。




昼間は母さんの夢で、今度はオヤジかよ。
大ッキライだ!って叫んで飛び起きて、周りで寝てた人が起きてこないのにほっとして、叫んだ自分が恥かしくなって。
隣りのベッドを見たら蛻の殻であれって思って。
そうしたら外から声が聞えて来て、そっと覗いてみる。
ワッカとルールーだ。何やら険悪な雰囲気。
うわぁ…。
あ、ワッカがこっち来る。
天幕に入って、俺が居たのにちょっと驚いたみたいだった。
「こっわいなあ」
実直な感想を述べると、ワッカはちょっと困ったような笑みを浮かべて通り過ぎようとする。
甘い。ここで逃すほど俺はオトナじゃないんだな、これが。
「で、チャップって?」
「俺の弟だ。お前に…似てたんだ」
は?どういう遺伝子なんだ。悪いけど俺、今、ワッカの両親見てみたいってすっげえ思った。
弟さんは討伐隊に入って、「シン」と戦って死んじゃったらしい。で、仇を討つ為にガードになったらしいんだけど、未だブリッツ選手としての自分を引き摺っているらしい。
ベッドの端に腰掛けて項垂れるワッカの姿は、とても小さく見えた。
お前を利用するようで悪いな、と力無い笑みを浮かべるワッカに俺は気にんなよ、って笑い返した。
本当にアンタには感謝してるんだ。もしアンタが手を差し伸べてくれなかったら、俺、今頃その辺で野垂れ死んでたかもしれないんだし。
「ありがとな、ワッカ」
手を差し出すと、ワッカも手を出し掛けたけど、すぐに引っ込めてしまった。
「照れ臭いからや〜めれ〜!」
ランプに照らされたワッカの顔は、つい笑っちゃうほど真っ赤だった。
久々に、ちゃんと笑えた気がした。




翌朝、眼が覚めるとまたもやワッカは居なくて、外へ出るとそこに居たワッカにねぼすけって言われてしまった。
んな事言われても目覚し時計とか無いし、いつ起きるとか言われなかったんだしさぁ。
スピラには何時、という感覚が無いらしくて驚いた。
ワッカに聞いたら太陽で測るんだって当たり前のように(ワッカ達にしてみればそれが当たり前なんだろうけど)言われて。
だから太陽を捜して辺りを見回す。
あー、あの辺まで昇ってると「ねぼすけ」扱いされるわけね。
そうしたら、ワッカが一振りの剣を俺に差し出した。
「お前にやろうと思ってな」
「すっげえ…貰って良いのか?」
アーロンから貰った剣と違って、ガラス細工みたいだった。
中には気泡が揺れていて、日の光に翳してみるとキラキラして凄く綺麗だった。
ただ、こんなので斬れるんかなーとか思ったけど、よく見たらスフィアで出来ているみたいだ。
それなら納得。
固形タイプのスフィアって、固いヤツはとことん固いんだよね。昔、録画用スフィア(保存版の方ね。それなりの保存方法なら半永久的に残せるってタイプ。お子さんの成長やもしもに備えての遺言等にどうぞっつー感じ。硬度はかなり高い。ちなみに一般的なのは使い捨てタイプで、こっちは結構簡単に割れる。今はこっちが主流らしい。格段に安いしね)の中身がどうなってるのか知りたくて何とかして割ろうとしたんだけど、これが固いの何のって。叩き落とそうが金槌で叩こうが傷一付かなくて。
何かの時にそれを思い出してアーロンに聞いたら、固められたスフィアはとてつもない硬度を持っているからどうたらって話を聞いた覚えがある。
「それ、チャップにあげたヤツ」
ワッカを咎めるようなルールーの声に彼はいいんだ、と笑った。
「気にすんな。アイツは一度も使わなかった」
寂しそうな笑い方だと思った。









(2002/06/21/高槻桂)

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