大きな足跡を辿る小さな足跡





「ガードじゃなくても良いの。傍にいてくれれば…」

ユウナが色んな意味で俺に興味を持っているのは、何となく感じていた。
そこに、恋愛感情があるのかどうか。
そこが一番気になってた。
浮かれた意味じゃなくてさ。
誰かに好意を持たれるって、凄く嬉しい事だと思う。
けど。
俺は、アーロンが好きだから。
だから、ユウナの興味が興味で終わってくれたら良いと思う。




「やっばいよなあ〜…」
俺は一人でぶつつきながら試練の間を歩いていた。
手にはキーリカのスフィア。
「でも仕方ないよなあ…」
何度も繰り返したセリフ。
だって仕方ないだろ?
試練の間に落されちまったんだから。
しかも昇降機動かないし。
あれって試練の間クリアしないと動かない、とかそういう仕組みなんだろうか。
とにかく。
あのドナってやつ、仕返しだか嫌がらせだか知らないけどさ、マジ勘弁。
あー怒られる。ぜってえ怒られる。
ワッカに呆れられてルールーに怒鳴られてキマリに睨まれる。
あーあーあーー。
あ、ここだ。
悩みながらでも謎解きはきっちりやります。よし燃えた燃えた。
うわ、熱。んでもっぺん外してあーだこーだ。
「ぅおっ」
壁崩れてるし。良いのかよコレ。
「あー宝箱発見〜…」
さして嬉しくない俺はそれをどうしようかと思う。
こういうのって、貰って良いのか迷うよな。
森の中とかでも見掛けたんだけど、ルールー達が取っても良いって言ったからそれは有り難く頂戴した。
試練の間で見つけたアイテムに関しては見つけた本人が好きにして良いらしい。
置いていくのも貰っていくのもアナタの自由ってヤツ。
ビサイドの時、良くわかんなくて持ってたら、後でワッカがそう教えてくれた。
で、ロッドだったんだけど、ユウナが欲しいって言ったからユウナにあげた。俺持ってても仕方ないし。
「……どーしたもんかなー…」
下手にデカイもん出てきたら邪魔だしな、とか思いながら目の前の宝箱を見詰める。
でもまあ見つけてしまった以上、開けてみないと気が済まないタチなので。
「どりゃっ」
必要以上に気合いの入った掛け声と共に蓋を開ける。
開けた瞬間、何か眼みたいな紋章が浮き上がって消えた。
「っ……」
ずきん、と額の中心が痛んで俺はそこを押さえる。
ビサイドでもこんな事があった。
同じように宝箱を見つけてしまって、開けたらさっきの紋章が浮き上がって…そしたら今と同じ所が痛くなった。
「……何だろ?」
まいっか。とにかく宝箱の中身は……。
「…これって、キマリの、だよな」
出て来たのは小手。俺は付けないしワッカも違うしルールーもユウナも違う。
となるとやっぱキマリでしょ。
「うっわぁ…」
苦手なんだよな、アイツ。
受け取り拒否されそう。
ま、その時はその時で売っ払おう。



「ほんっっと呆れたわッ」
す、すみません…。
案の定、ワッカに呆れられてルールーに怒鳴られてキマリに睨まれました。
不本意なんだってば!
んで、あと祈り子についても教えてもらった。
祈り子って取り敢えず口にしてたけど、実際ルールーにどんな存在なのか聞いて、驚いた。
怖っ!!
ぶっちゃけそれが第一印象。
だって魂だけ取り出されて像に封じ込まれてんだぜ?うっわー。
まあとにかく大人しくしてろって言われて(騒がしくてスミマセンね)部屋の隅っこでぼーっとしてた。
懐かしい、と思う。
この部屋に入ってからずっと聞えてる歌。
俺、この歌小さな頃から知ってる。
オヤジがよく歌ってた。
懐かしい、歌。
懐かしい……


――ジェクトに負けねえくらい暴れてこいや


(あ……)
そうか、この歌声、ミカちゃんに似てるんだ…。
ミカちゃんは歌ったりなんてしなかったけど、きっとこんな感じ。
みんな、どうなったんだろう。
あれから、ザナルカンドはどうなったんだろう。
ああ、俺、おれ…帰りたい。
スクール行って、ブリッツやって、仲間とくっだらない事駄弁って、家に帰ればアーロンが夕飯作ってて。

………帰りたい。





連絡船ウイノ号に乗った俺たちは、ルカに到着するまでのんびりしとけ、というワッカの言葉に従ってのんびり船内をうろついたりして時間を過ごしていた。
『ティーダ』
頭の中に響いた声にはっとして俺は足を止める。
(アリス!?)
俺は何気ない振りを装って船内へと戻り、人気の無い隅っこの方で腰を下ろした。
(アリス、あーえーと、何から聞けば良いんだろ…わかんないことばっかで……)
『スピラに、来たんだよね。アーロンさんには、逢えた?』
(まだッス…)
『大丈夫。逢えるよ、絶対』
(うん……)
アリスが言うと、本当にそうなんだって思えてくるから不思議だ。
(アリスは、知ってたんスね…俺が、こうなるって)
『うん…。けど、私は、それを見守るしか、できないの。これは、私じゃなくて、キミの、物語だから』
アリスは独特な喋り方をする。
一言一区切り、ゆっくり丁寧に言う。
だからなのかな、アリスの言葉に説得力があるのは。
『それとね、私が眠っている間、誰かに何か…魔法とか、掛けられたりしなかった?』
「へ?」
おっと、思わず声が出てしまった。
(掛けられてない筈だけど…何で?)
『何か、キミの中に靄の様なものが、あるの。今みたいに、日が高い時は、それは薄れているから私、出てこれるの。でも、夜になるに連れて靄の力、強くなるみたいなの。だから、例え眼が覚めても、私、出てこられないの』
(ええっ!俺、そんな魔法とか掛けられた覚え無いッスよ?!)
『うーん、何なんだろう。私も頑張ってみるけど、当分、夜の間は出てこれないと思う』
(そっか…ゴメンな、何か変な事になっちゃって…)
『いいの、大丈夫。気にしないで』

それから、俺はアリスと色々な事を話した。
ザナルカンドの事、スピラに来てからの事……ザナルカンドが大昔に滅んだ事とか、「シン」とか、アリスは俺の疑問の答えを知っているみたいだったけど、それを教えてはくれなかった。
自分で見つけないと、意味が無い。
アリスは幼い頃の俺にそう教えてくれた事があった。
アーロンもそんな事をよく言ってて、俺の絶対的存在である二人がそう言うのなら、そうなのかって思うようになってた。
そりゃあさ、ずるい、とか今でも多少は思うけど、二人の言ってる事が正しいってわかってるから無理に聞き出そうとは思ってない。
『ごめん、そろそろ、限界みたい』
だんだん、アリスの声が何かに遮られるように聞え難くなっているのが分かった。
これが、アリスの言っていた靄みたいなヤツの所為なんだろうか。
(ん、了解ッス。ありがと)
フッとアリスの気配が消えるのがわかる。
俺は立ち上って甲板へ出た。







(2002/06/25/高槻桂)

戻る