大きな足跡を辿る小さな足跡
どうして顔を上げる気になったのだろう。 眼に、力が有るようだと言われたからだろうか。 この、忘れる事の出来ない罪の刻印を、キレイだと言われたからだろうか。 「あは、やっと顔上げてくれた!俺、ティーダ。アンタは?」 似て、いたんだ。 髪の色や、瞳の色、何もかもが違っているのに、キミに似ていたんだ。 瞳が、印象的だった。 キミに出会った時と同じ、あの感覚。 キミと同じ無垢な瞳が俺を見下ろしていて、俺はその手を取ってしまった。 人の温もりなんて、何年、いや、何十、何百…?もう、記憶に無いくらい昔の事だ。 逢いたい。 キミとあの人が解き放たれてから、どれほど経ったのだろう。 伝えたい事が、あるんだ。 あの時、あの大空洞の中で、俺はキミにもあの人にも伝えられないまま全てを終えてしまった。 ずっと、捜していた。 けれど、どちらに逢う事も出来なくて。 もう、この地にはいないのかもしれない。 そう思い始めていた時。 救われた、のかもしれない。 もう、希望なんて言葉を忘れ掛けていた俺は、この少年に、救われたのかもしれない。 もう少しだけ、諦めないでいようと、思った。 結構長い間話し込んでいた様だ。空は暗い。 船首の方にはユウナ達がいた。 今は何となく彼女らに会いたくない気がして、ティーダは反対側の船尾の方へ足を向ける。 (ん?) 誰もいないと思われたそこの片隅に、一人の青年が蹲っているのが見て取れた。 「大丈夫ッスか?」 近寄って声を掛けてみると、青年はぴくりとしてゆっくりと顔を上げる。 ティーダよりはっきりとした、黄色の強い金髪は旋毛の数を数えてみたい気にさせる伸び方をしていた。 さきほど見たチョコボ。それを思い起こさせる髪型だ。 瞳はアリスのアクアマリンより青の強い鮮やかなマリンブルー。 ランプの光を反射したのだろう、微かに光って見えた。 「……放っておけ」 ぽつり、とだけ呟いて青年は再び首を垂れてしまう。 そこに至って気付いたのだが、青年の傍らにはとてつもなく大きな剣が寝せてあった。 アーロンの太刀も十分大きかったが、これは規格外の大きさだ。 しかも、その刀身にはいつから巻いてあるのだろう、ぼろぼろになった布がまるで戒めのように巻かれている。 これでは斬れないのではないだろうか。 それに興味を引かれたのか、ティーダは青年の素っ気無い態度にもめげずに話し掛けた。 「なあ、こんな後ろの方に居るより、船首の方、行った方がマシになるッスよ?」 彼は無視を決め込む事にしたらしく、反応はない。 「船酔いにはバズゥイの実を潰したヤツを奥歯の辺に詰めておくと良いんだって友達が言ってたッス」 「………」 「んーと…あ、そだ。アンタの眼、キレイだよな。俺の友達より青っぽくて、眼が力を持ってるって感じがする」 そこで漸く青年は再び顔を上げた。 それが嬉しかったのだろう、ティーダは嬉しそうに笑った。 「あは、やっと顔上げてくれた!俺、ティーダ。アンタは?」 日の光の様な笑顔と共に手を差し伸べられ、青年はつられたようにその手を取った。 「……クラウド」 すると、繋がれた手はぐいっと引かれ、彼は不本意ながら立ち上る事となった。 「んじゃ、クラウド。そーんな下向いて蹲ってたんじゃ、余計気分悪くなるッス」 「はあ…」 「アンタもルカに行くのか?…ってこの船に乗ってるんだから当たり前か」 うーん、と唸って何とか会話の糸口を引き出そうとするティーダに、クラウドは微かに視線を柔らかくする。 「…人を、探しているんだ」 「人?」 クラウドの方から口を開いてくれたのが嬉しかったらしく、ティーダは瞬時にその話題に飛び付いて来た。 「その人達に会う為に、ずっと旅をしている……」 「俺も!俺もさ、捜してるヤツ、居るんだ。けど、絶対会えるって信じてる。つか、会ってみせる。だから、アンタもその人達、会えるよ、絶対」 全く持って根拠の無いセリフだったが、それでも、クラウドはそれを信じたいと思った。 口調が似ていたからだろう。 まるで、彼女がそう言ってくれている様な気がしたから。 もう歴史書に載っていない程の昔から、生きて来たのだ。 後ほんの少しくらい、走ってみせる。 「……ありがとう」 (2002/06/25/高槻桂) |