大きな足跡を辿る小さな足跡





ああ、またあの夢だ。
真っ暗闇の中、俺は一人で突っ立ってる。
けど、独りじゃない。

「今晩和」

「ッス」
ほら、俺は独りじゃない。
姿は見えないけど、気配はするんだ。
偶に、感触もある。あ、今、手が髪に触ったな、とか。
だから、真っ暗闇でも怖くない。
「なあ、アンタってさ、誰?」
「その内、会えますよ」
「ふーん…?じゃあ良いや。聞かない」
相手が微笑ったのがわかる。
ふわり、と頬を撫でられた。
ひんやりとしてて、気持ち良い。
「聞き分けの良い子は好きですよ」
そりゃどうも。
あ、また笑ってる。
……照れてんだよ悪かったな。
そういう事言われるの、馴れてないんだって。
へ?
今、一番したい事…ッスか?突然何。
うーんと……やっぱ、あれかな。
「アーロンに、会いたい…」
「アーロン?まさか、あのブラスカ様のガードだった?」
ああ、やっぱそうなんだ。ユウナもそう言ってた。
「変な感じ。アーロンがオヤジの知り合いだって事は知ってたけどさ」
「アーロン殿からは、何も聞いていないのですか?」
「うん、アーロンは自分の事、何も言わなかったから。オヤジの知り合いで、俺の傍に居てくれるってだけしか知らない」
それだけで、良かったんだ。
アーロンが何処から来たのかとか、オヤジに頼まれただけでどうしてここまでしてくれるのか、とか。
知りたいとは思ってたけど、それだけで良かった。
アーロンが傍に居てくれれば、それで良かった。
「貴方にそこまで愛されて、アーロン殿も幸せでしょう」
「んー…そうだと良いんスけどね。余り、言葉にしてくれないから、あのオッサン」
でもさ、ちゃんと、愛されてるなーって思う。
俺と居る時のアンタの表情、外に居る時より柔らかい。
それって、そういう事だって思って良いよな?
俺、アーロンに愛されてるって思っても良いよな。
「けれど、気を付けなさい。人の想いほど変わり易いものはない」
そんなこと…!
「例え本質はお互いの望むものであっても、何時しか歪んだ形になる事もある。それは自然に歪む事もあれば、意図的に歪める者もいる」
「?どういう…」
「さあ、そろそろ目を醒ましなさい。またねぼすけと言われてしまいますよ」




「私たちもお迎えに行こうよ!」
ルカに着いた俺たちは慌ただしく三番ポートへと駆け出した。
どうやらマイカ総老師っつースピラで一番偉い人が到着したらしい。
へんてこな音楽隊(あーゆーのも亜人っつーんだってさ)の演奏の中、船上に一人の男が姿を現わした。
何アレ触角?
水色なんて珍しい色をした長い髪を、左右と前に一房ずつ触角みたいに固めてある。
それ以外の髪はちょっと長めかな?っていうくらいだけど。
服も変だし。
……あれ?
俺、何か前に同じ事思った事ある気がする。
シーモア=グアド。
なんだろう。
何処かで聞いた名前。
何処かで聞いた声。
何処で。
「……っ……」
キシ、と額の中心に痛みが走った。
それでも何とか耐えてると、ワッカが口を挟んで来た。
は?祈るの?何で?
首を傾げて、不意にシーモアの視線に気付いた。
シーモアは、真っ直ぐにユウナを見詰めている。
……。
何かむかつくな、コイツ。
険のある視線で見ていたのに気付いたのか、シーモアがユウナから視線を外して俺を見た。
「!」
一瞬、ほんの少しだけふっと笑ってアイツは去っていった。
何かムカツク。
アイツ、ティーダ君のブラックリスト、上位ランクイン決定。





「カフェでアーロンさんを見たって人がいたの!」

嬉しいとか、そんな事より…会いたい。
ただそれだけだった。
「ユウナ!」
先に行ってしまったユウナに追いつくと、彼女はレポーターにインタビューを受けていた。
「すみません、通して下さい」
うわー大変そう。
つか、何この人込み。
ザナルカンドだと当たり前に見えるけど、スピラでこれだけ人が居ると一層多く感じる。
迷子になる確率高し。(特に俺が)
よし、ここはいっちょ、アレだな。
ユウナに指笛教えておこう。
逸れた時に役立ちそうだし。
はい、練習あるのみです。




結局、アーロンは見つからなくて、代わりにキマリのゴタゴタに巻き込まれて。
気付いたらユウナが攫われてて。
んで、慌てて外出た所でルールーに怒られた。
あらららら。
そんなワケでユウナ救出に向かう事になりましたっと。
うわわ、あちらさん、マジッスか。
機械がゾロゾロ御出ましになって俺らの行く手を阻む。
こりゃ、やり過ぎっしょ。
つーことで、ちーとばかしお灸を据えてやりましたっと。
それにしても、ユウナってさり気に強いよな。
俺らがやっと辿り着いたーって思ったらけろっとした顔で出てくるし。
あーあー、完全に気ぃ失ってら、あのアルベド族。
そんなこんなで無事ユウナを救出して、船は四人で適当に操作して港に戻った。
驚いたのは、ユウナもアルベド族だったって事。
半分だけらしいけど。お母さんがそうなんだってさ。
アルベドと言えば、リュック、あれからどうしてるんだろう。
無事なんだろうか。
また、会えるよな。
俺はそう信じてるッス。




俺はルカ・ゴワーズ戦から入ったんだけどさ、やっぱ、上手く動けない。
そりゃ他のメンバーよりは上手く動けてたとは思うけど、やっぱ駄目だった。
アイツらじゃない。
ずっと一緒に頑張って来たエイブズの仲間じゃない。
だから、みんなが俺の動きに合わせて回り込んだりとか、スルーパスを受け取ったりなんて出来ないのは当たり前で。
わかってた。
頭では分かってるつもりだったんだ。
けど、やっぱ体は勝手に動くもので。
スルーを出しそうになって慌てて止めたり、クイック決めようとして咄嗟に普通にパス出したり。
オーラカのみんなもそうだったらしくて、やっぱオーラカのキャプテンはワッカじゃないと駄目なんだな、って思った。
だから、ワッカコールが起こった時、正直な話、ほっとした。
ワッカと俺が交替して、俺はスフィアプールの出入り口からずっと見てた。
で、同点だった所にワッカがシュートを決めて、何とオーラカ初優勝!
嬉しくなって、スフィアプールん中でぼけーっとしてるワッカの元へ急いだ。
あいつ、精も根も尽き果てましたーって顔しててさ。でも、眼は嬉しそうに笑ってた。
話せないからぐって親指立てたワッカの手を握って、良かったなって伝えて。
そしたら、辺りが騒がしい事に気付いた。
優勝に浮かれてるとかそんなんじゃなくて、もっと、緊迫したもの。
理由はわかんないけど、ヤバイ。
ワッカもそう感じたんだろう、顔を見合わせて頷いた。
俺たちは出入り口へ急いでロッカーへ駆け込んだ。
手には、己の武器。
観客席へ向かおうとして、スフィアモニタに映し出された光景に俺たちの走り出す方向は逆転した。
つまりはスフィアプールへと逆戻り。
スフィアプール内にはまだ何人かの選手が残っていたのだ。
そこに混じって、何匹もの魔物。
俺たちは舞い戻ったスフィアプール内で魚モドキの魔物と対峙する。
さっきまでならどうだったかわかんないけどさ。
こっちにゃ頼もしい相棒がそれぞれの手にあるんだよっと。
つーことでザクザク倒してみました。
楽勝楽勝。
さて、この中はもう居ないみたいだし、さっさと観客席の方に行きますか。
「どういう事だよ!」
「俺に聞いてもわかんないって!」
走りながら俺たちはそう怒鳴り合う。
所々に設置されたスフィアモニタには大量の魔物と、それから必死で逃げていく人々。
現に俺たちが駆け抜けている場所も、逃げて来た人々でごった返してる。
うわ、ちょ、頼むから通して…。
「!!」
漸く客席に上がった俺は、見覚えのある紅に眼を見張った。
「アーロンさん!」
「アーロン!」
けど、俺が名を呼ぶより早くワッカが声を上げた。
「…やっぱ、知ってんのか…」
「ああ、最高のガードだ」
そう誇らしげに頷くワッカに、やっぱそうなんだ、って思った。
アーロンも、こっちの人間だったんだなって。
少し、寂しかった。
「来るぞ」
アーロンの声にはっとする。
うわ、あのでっかい鳥登場。
俺アイツ苦手。
でも、大丈夫。
アーロンが居る。
アーロンが傍に居てくるから、大丈夫。
俺、俄然張り切っちゃうッスよ!

……のつもりだったんだけどさ、何匹いるわけ?

結構倒したんだけど、まだまだって感じ。
アーロンは大丈夫かもしれないけどさ、俺とワッカは結構お疲れモードなのよ。
只でさえ試合直後だ、し……
倒した魔物の遥か向こう、総老師席に一人の男が歩み出た。
「ティーダ?!」
カシャン、とフラタニティが落ちる。


額が、熱い。


凄まじい音と共に異形の召喚獣がその姿を現わす。






――母さま…
      お母さん




――母様さえいれば何も要らないよ!
      お母さん、こっち、見てよ





――だから、母様を、
      お母さんを、











「連れて行かないで」













(2002/06/26/高槻桂)

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