大きな足跡を辿る小さな足跡
ミヘン街道は、一人で歩いてみると一層その長さを実感させられる。 あの時は、ブラスカとジェクトがいた。 だから、この長い街道も苦にはならなかった。 寧ろジェクトの破天荒振りに気が行っていてそれ所ではなかった。 だが、その街道も終わった。 「……ルカ、か」 長い階段の上からこのスピラで一番大きいとされる街を見下ろし、アーロンは呟いた。 あの頃は、大きな街だと、人の多い街だと思っていた。 けれど、ザナルカンドの喧騒に馴れてしまったこの身には些か違和感を覚える。 階段を降りながら、変わらないな、と思う。 このスピラに戻って来て、何度も思った事だ。 十年一昔とよく言うが、この街は十年経っても、恐らく百年経っても変わらないだろう。 成長を恐れる地。 それが、スピラだ。 「……」 不意に目に留まった看板に目が行った。 それはブリッツの大トーナメントを示したものだった。 そんな時期だったのかと思い、近くの店に入った。 カフェの中も、設置されたモニタに映し出されるチームとその解説に客たちは釘付けと言う感じだ。 カウンターに近寄り、アーロンは人を探している、と告げた。 「年は十七、金髪碧眼の…」 『チョーシ乗んなよゴワーズ!!』 「……」 ぎしっとアーロンの動きが止まった。 お、御客様?と不安げに声を掛けるマスターを余所に、固い動きでスフィアモニタを見上げる。 『今年の優勝は、俺たちビサイド・オーラカが頂く!なっはっはっはっはー!!』 ふらり、と脱力しかけて気合いを入れ直す。 間違いない、ティーダだ。 自力でビサイドに着いたとは思えないからやはりジェクトが何とかしたのだろう。 だが。 アレだ、俗に言うアレだ。 あの親にしてこの子あり。 ジェクトそっくりだ。 まあ違うと言えば、ジェクトの場合は瞬殺したくなる所だが、ティーダの場合は可愛いと思える所だ。 「………」 とにかく、探し物は見つかった。 アーロンは足早にカフェを出るとスタジアムへと向かった。 やはり、動きが固い。 ティーダの動きにオーラカの面々が付いていけれないのだ。 ティーダもそれを頭で分かってはいても、体は無意識に動く。 だから、どこかぎこちない。 やがてティーダがワッカと呼ばれるオーラカのキャプテンと交替し、試合は彼らの優勝で幕を閉じた。 そしてティーダがワッカの元へ行き、その手を握って笑った。 オイあのトサカ頭、誰の許可を得て俺のティーダに触れている。(ティーダからワッカの手を握った事実は無視されたようだ) どうしてくれようと考えている所に雪崩れ込んで来た大量の魔物。 「……俺の機嫌が悪いと分かっていての事か?」 魔物にそんな事言ったってわかりっこないのだが、それでもその気迫に圧されたのか巨大トカゲモドキな魔物はじりっと一歩退いた。 逃すと思っているのか。 ルカへ辿り着くまでに大量の魔物を倒して来た。 やはり少々鈍っていたな、と思いながらも馴らして来たのだが。 快調快調。 アーロンは絶好調と言わんばかりに魔物を一撃必殺。 どうせならもう少し手応えのある相手を、などと不謹慎な事を考えていると名を呼ばれた。 「アーロンさん!」 「アーロン!」 一つはどうでも良い声だ。 重要なのはもう一つの声。 さっさと目の前の魔物を倒して振り返る。 そこに居たのは、漸く会えた愛し子。 嬉しさと、寂しさの入り交じった表情をしている。 「来るぞ」 再会を引き裂くように羽音を立てながら現れた魔物に、アーロンは意識を向けた。 (……切りが無いな) 自分は良いとして、ティーダとトサカは明らかに疲れが見え始めている。 突然、隣りで戦っていたティーダが動きを止めた。 「ティーダ?!」 カシャン、と手にした剣が落ちる。 突然無防備になったティーダに魔物の爪が向かう。 「チッ…」 それを叩き落としながらティーダの様子を窺った。 ティーダは放心したようにある一点を見上げていた。 「?」 その視線を追うと、そこは総老師席だった。 そこへ、一人の男が進み出る。 シーモア=グアドだ。 彼は寺院最高敬礼をし、凄まじい音と共に異形の召喚獣を召喚する。 触れる事無く、次々と魔物を消していく。 あれが、ヤツの究極召喚獣か。 十年前、ザナルカンド遺跡で見たスフィアの記憶の一コマ。 シーモア=グアドは己の母親を祈り子とし、究極召喚を得た。 だが、彼がそれを使う事は無かった。 それが、あの召喚獣か。 「……、を…」 「ティーダ?!」 ぼそり、と放心したままのティーダが何かを呟いた。 くしゃり、と哀しみにその表情を歪め、少年は呟く。 「連れて行かないで」 (2002/06/26/高槻桂) |