大きな足跡を辿る小さな足跡





翌朝、昨日と同じくミヘン街道をひたすら歩いていた俺たちは、ベルゲミーネという召喚士と出会った。
「お前の召喚獣と私の召喚獣で、一つ腕比べといこう」
変だな、と思ったのは、召喚士なのにガードがいないって事。
けどまあ人にはそれぞれ事情があるだろうしって事でそれほど気に留めなかった。
「では始めようか」
言葉と共にベルゲミーネの傍らにイフリートが轟音と共にその姿を現す。
俺はこの時、初めて召喚杖が無くても召喚が出来ることを知った。
そしてそれに続いてユウナもヴァルファーレを召喚する。
「いくぞ」
「お願いします」

戦いは、それほど長い時間はかからなかった。
そこまで!とベルゲミーネの声に、召喚獣はその姿を消した。
「なあ、アーロン」
アドバイスを受けているユウナを尻目に、俺は隣に立つアーロンの袖を軽く引っ張る。
「何かさ、召喚獣、楽しそうだったよな」
「楽しそう?」
訝しげな視線で見下ろしてくるアーロンに、俺はこくりと頷いて返す。
「うん、なんか、普段の戦闘の時とは違って、純粋に力比べを楽しんでるって感じに見えた」
「そこの少年」
「へ?」
突然ベルゲミーネの張りのある声に呼ばれ、無意識に背筋を伸ばしてしまう。
「召喚獣たちが、楽しそうに見えたか」
うわ、聞いてたのかよ。
「あっと、その、なんとなーくそうかなーって…」
自分の言ってる事に自信がなくなってきた俺はアーロンの陰に隠れるように体をずらした。
「少年、名は」
「…ティーダ」
「ではティーダ、お前、召喚士の資質があるやもしれんな」
「それ、ユウナにも言われたッス」
けど、俺はユウナのガードだし、修行とかも真っ平だから召喚士になるつもりはない。
「まあ、召喚士は資質だけでなれるものでは無いからな。ティーダ、ユウナを守ってやれ」
「言われなくとも、ッスよ」
ぐっと拳を突き出した俺にベルゲミーネはそうだな、と笑って去っていった。
「意外だな、お前に召喚士の資質があるかもーだなんてさ」
ベルゲミーネの姿が小さくなる頃、ワッカがそう呟いた。
そう見えなくてスミマセンね。
まあ俺だってユウナに言われるまで考えた事も無かったけどさ。
「ユウナ、いつそんな事言ったんだ?」
あーワッカって絶対デリカシーゼロだ。
女の子が生理痛我慢してたら「生理痛大丈夫か!?」とか公共の場で言っちゃうタイプだ。
「うん、ちょっと、キーリカで…」
ほらユウナも答えに困ってる。
きっと、俺が水の上歩ける事とか、俺自身が気にしてる事知ってるから、バレない様にしてくれてるんだと思う。
あー良い子だなーユウナ。
っとそうじゃなくて、早くワッカの質問攻めから救出しないと。
「あーワッカワッカ、そーゆー野暮な事は聞かないでくれる?」
首を軽く傾げ、ひょいっと肩を竦めておどけてみせる。
「野暮ってお前…ちょ、ちょちょちょっと待て!お前らあの夜二人で何しぐはっ!」
慌てるワッカの顎に俺のアッパーが綺麗に決まった。
「ワッカってばなーに考えてんスか〜?ヤッダーワッカのえっちぃ〜!」
あははんと笑いながらも「アーロンに誤解されたらどうすんだよコノヤロウ」という怒りを込めて顎を押さえるワッカの背中をバシバシ叩く。
「いってぇ!!」
勿論手加減無し。
「んじゃそろそろ出発しようぜ」
ちらりとアーロンを窺うと、相変わらずの無表情。
ほっとするべきかヤバイと思うべきか…。
あーあ。




「私はシェリンダと申します」
さっきの召喚獣バトルを見るのも初めてなら、巡回僧を見たのもこれが初めてだった。
いや、他にも居たんだろうけど、そうだと認識を持って相手を見たのはこれが初めてだった。
「倒せる倒せないの問題ではないのです。教えに反する事が問題なのです!」
ちり、と胸の奥で何かが燻り始める。
シェリンダを見ていると、心がざわつく。
何か……昔を、思い出す。
「ありがとうございます、ユウナ様!」
ユウナに励まされ、シェリンダは再び近くの兵の元へ向かい、説得にかかる。
それに背を向けて再び歩き出して暫く経った頃、アーロンが不意に口を開いた。
「何を苛立っている」
「……」
シェリンダと別れてから明らかに口数の減った、俺の「機嫌が悪いですー」な態度に見兼ねたんだろう。
すみませんね、アンタみたいにポーカーフェイス得意じゃないんでね。
「別に、大した事じゃない」
「ティーダ」
あー、めっちゃ「周りに迷惑だ」視線。
仕方なくアーロンにもう少しだけ近寄ってちっちゃく愚痴タイム。
小さくっつってもすぐ隣りのユウナには聞えてしまうんだろうけどさ。
ゴメン、ユウナ。
「アイツ、好きじゃない」
「さっきの巡回僧か」
「ん。別に、彼女自身が悪いわけじゃないんだけどさ……母さんに、似てた」
「彼女がか?」
何処が、って顔してる。
「アーロンは、オヤジが居なくなってからの母さんしか知らないからな。オヤジが居た時の母さん、あんな感じだったんだ」
ちょっとした事で一喜一憂する所とか、はしゃいだ時の声とか、自分の絶対と信じたものにはとことん尽くす所とか。
「母さんの世界はオヤジが中心で、全てだった。オヤジが黒って言えば白だって黒になる。そんな人だった」
「確かに…」
確かに彼女には妄信的な所があった。
そう思ってみれば、さきほどの巡回僧と似ているやもしれない。
「だから、ちょっとイライラしてただけ。ゴメン」
そう締めくくると、アーロンはぽんっと軽く俺の頭を小突いた。
そんな小さなやり取りが、嬉しかった。




夕方になって漸く街道を抜けて、アルベド族の経営する旅行公司で休む事になった。
部屋割りはユウナとルールー、ワッカとキマリ、そして俺とアーロン。
んー、やっぱアーロンって「伝説」らしくてさ。近寄り難いんだとさ。
で、自動的に俺と一緒ってわけ。
こっちとしては嬉しいから良いんだけど。
「やっ、ちょ、アーロ…!」
部屋に入るなり壁に押し付けられ、体を弄られる。
もしかして、さっきの嫉妬してるんスか?!
だってユウナの後姿なんか寂しそうだったからってわ、わ、ちょっ…がっつくなっつーの!
「アーロン、ア、ロン…」
上着はとっくに床の上。ズボンもジッパー下ろされてそこからアーロンの手が入り込んでる。
「ん、っ、ぅ…」
ここって見るからに壁薄いし、隣りはワッカとキマリの部屋だから迂闊に声も上げられない。
いや、それより大事な事が。
「アーロン、駄目だって、ゴム無いのに…」
「案ずるな」
気にするっつーの!つーか無しでヤったらどっちかってーとアンタの方がヤバイだろーが!
性病持ちの伝説のガードなんて笑えねえーっつの!!
「飲め。噛むなよ」
「苦っ!何スかこれ?!」
問答無用で飲まされた丸薬らしきものの後味に俺は顔を顰める。
「薬だ」
「何の?!」
「スピラに避妊具は無いがこういうのは捜せば山ほど有るんでな」
そう言ってアーロンも一粒それを飲む。
あー、そういう事。
要はアレか、性病予防薬とかその類か。
「これは半日ほど効くから事前又は事後に飲めば良い。ただし飲み過ぎるな。殺菌作用が強いからな。体に必要な菌まで殺してしまう」
とか説明しながら人の体弄ぶな!
「んっ、っ……」
貪られるように口付けられ、仄かに苦い舌の味に顔を顰める。
その間にもアーロンの指は俺の性器を弄り、次第に滴り始めた先走りの雫を指に絡めてその更に奥へと進んでいく。
「っふぁ、はっ…ぁ…」
ぐっと指が侵入してくる。
馴れたとは言え、やっぱ、ちょっと変な感じ。
「ぁっ…」
うわ、そこ弱いんだってば!声出せないの分かっててやってるだろ!
「ゃ、ア…ロ…」
ぴったり密着して、でも下半身ではアーロンの指が忙しなく動いてて。
仰け反った俺の喉にアーロンが口付ける。
「んっ……」
時々聞える濡れた音が凄くイヤラシイ。
んでその音に興奮してる俺も十分ヤラシイ。
「アー、ロン…な、挿れて…?」
でも一番イヤラシイのはこのオッサンだって絶対。
「ぁ」
ぐるっと体反転させられて、壁に両手をタッチ。
ズボンもアンダーも全部下ろされて、アーロンのが押し当てられる。
「んんっ…!っふ、ぅっ…」
ゆっくりと先端部が入って来る痛みを伴うそれに俺はきつく眼を閉じる。
挿れちゃえばこっちのもんなんだけどさ、それまでが結構キツイ。
「っ…ぁーっ!」
なんつーかさ、こう、イタタタタうわ入って来る入って来るーって感じ。
悪いけどロマンチックな事なんて全然考えて無い。
「んっ、んっ、っ」
遠慮無しに出し入れされるそれに俺は軽く頭を振る。
あ、別にヤダとかそういうんじゃなくて、頭ン中溶けそうな感じがして振っただけ。
「はっ、ぁっ」
それにしても、これさ、結構暇になる。
挿れてる方は締め付けやら何やらで最後まで夢中かもしれないけどさ、挿れられてる方って実は結構退屈だったりする。
そりゃ萎えるほどじゃないし、他事考えれる程じゃないけど何となく飽きて来て早くイかないかなーとか思う事もある。
「ぁっ、ぁーっ」
でも前立腺を擦られると頭ン中またぼーっとする。
勃つっつーより、中が気持ち良くてもっと擦って欲しくなる。
あーヤバイ、ちょっと限界かも。
「アーロ…俺、も、」
「イけ」
「んっ、っ、んんっ!」
「くっ…」
イく時の収縮にアーロンが小さくうめいて、二、三回強く出し入れしてから射精した。
「…はぁ…」
………はっ、しまった、床汚しちゃった。壁は…何とかセーフ。
「ンッ…」
アーロンのが抜かれる感触、ぞくっとする。
そのままへたり込みそうになるのを我慢してふらふらとシャワールームへ。
ホント水浴びるだけの簡易なもんだけど、無いよりマシ。
体洗ってちゃんと中出しされたのも始末して、タオル引っ被ってアーロンにバトンタッチ。
あー…体ふわふわする。
ふらつきながらも服着て整える。
さて。アーロンがシャワー浴びてる間に俺は床掃除。
セックスに夢持ってる子が見たらショックだろうなーとかちょっと思う。
終わってみれば案外閑散としたもので。
特に男同士なんて、ピロートークなんてする暇あったらさっさと体洗ってこいっつー感じ。
よし、掃除終了。
洗面台で床拭いたタオル洗ってるとアーロンが出て来た。
新しいタオルをアーロンに渡して、洗った方は台に掛けて干す。
部屋に戻ってベッドの端に腰掛けると、ズボンと赤い上着だけを羽織ったアーロンが「髪をしっかり拭け。風邪引くぞ」とか言った。
俺は生返事を返して首に掛けたタオルでがしがしと髪を拭く。
あー何か疲労感漂い始めて来た。
ついでに眠気も。
「アーロン、俺もう寝る…」
もぞもぞとベッドに潜り込んで俺は眼を閉じる。
ホントはさ、アーロンの隣りで寝たいんだけど、万が一何かあってワッカとかが呼びに来たらヤバイだろ?
だから別々。
ちょっと寂しいけど、同じ部屋だからまあ良いか。
おやすみ、アーロン。







(2002/06/30/高槻桂)

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