大きな足跡を辿る小さな足跡






私は、どうすれば良いんだろう。

「思い出は、心の中に」
そう笑ったリュック。強いなあって、思ったの。


シーモア老師と結婚すれば、きっとスピラのみんな喜んでくれる。
ここへ来るまでで出会った人達、何処かに影を背負っていた。
もしかしたら、次の瞬間には「シン」が襲ってくるかもしれない。
そんな不安を抱えた表情だった。
ほんの少しでも良いんだ。
私が結婚する事で、たった少しでもその影が薄くなってくれるなら。
希望を持ってくれるなら。
その為に、召喚士になったんだから。
きっと、シーモア老師は結婚してもこのまま旅を続けさせてくれると思う。
あの人だって、老師になるまでは召喚士だったんだし。
分かってくれると思う。
だったら、結婚してみんなに希望を持ってもらって、それから私が「シン」を倒しても、良いんじゃないかな?
それが、スピラにとって一番良い道なんじゃないかな。
…あれ?
そういえば、シーモア老師のあの召喚獣…どこの寺院のなんだろう。
ルカで始めてみた時は、その姿と力にただ驚いてしまったけれど…。
寺院で習った中には無い召喚獣。
このスピラには、「シン」によって崩された寺院も多くある。その殆どは祈り子様も死んでしまっているらしいんだけれど、祈り子様が無事だった寺院があったのかもしれない。
それとも…「シン」と戦う事の無かった、究極召喚獣…?
…やめた!
今は、それ所じゃなくて!!
そうよ、私が今考えるべきことは、スピラの事!
シーモア老師と結婚して、例え少しの間でも明るい気持ちにする事!!
…でもね。
やっぱり、私、女の子なんだなって、思うの。
召喚士なんだから、そんなこと、思っちゃダメだって分かってる。
でも、やっぱり、女の子にとって、結婚ってとっても大切な事だと思うの。
一番大好きな人と、結婚したいって…そう思っちゃう。
ごめんなさい。
召喚士である自分と、私を支えてくれるみんなに、ごめんなさい。
でも、想うだけなら…良いよね?




異界って、もっとこう、驚咢した所だと思った。
いや、だってさ、死んだ人が行く所って聞いてたから。
だけど、実際行ってみるとそんな気構えするほどじゃなかった。
まあ、驚いたけどね。
生身の人間は、あの展望台みたいになった場所から奥へは行けないらしい。
一人くらい飛び込む奴がいてもおかしくなさそうだけど、どうやら見えない壁みたいなのがあって、そこから先には行けないらしい。
ワッカがチャップを呼び出して(って言うのか?)何か話してた。
あれがチャップ?あー、確かにワッカと俺を足して割った感じの顔してる。
ってそんな事より。
ユウナ、本気でシーモアと結婚しちまうのかな。
俺、自分が違う所から来たんだって事を今までとは違う意味で実感してたり。
いや、だってさ、結婚って女の子にとって人生最大イベントだって思ってたし、実際、ザナルカンドにいた時はそんな感じだった。
シーモアとユウナの結婚って、所謂政略結婚だろ?
それをみんな普通に受け止めてる。
俺一人感情派って感じで、それが甘えだって言われてるような気がして、イライラした。


で、異界から返って来てみれば肝心のシーモアはお出かけ中らしくて。
何だっけ、マ、マカニャー、マラカーニャ?え?マカラーニャ?ああ、それそれ。
そこへ行ったんだと。
まあ、次に向かう寺院もそこだって言うし、ついでって事で。
それにしても、ユウナがさっきからずーっと考え込んでる。
結婚の事かと思ったけれど、それとは何か違うっぽい。
さっきの、シーモアの親父さん?ジスカルって人を送ってからずっと。
なーんか、隠してるなーとは思うんだけど。
ユウナの考えが纏まるまでは、とりあえずそっとしておく事にした。
気になるけどね。
さて、次は雷平原だとさ。
雷は嫌いじゃないけど、音で耳が痛くなりそう。
だってさ、このグアドサラムにまで聞えて来るんだぜ、落雷の音。
そこを通らないと行けれないってんだから仕方ないけど。
さてと、行きますか。




ドーン!
「きゃああああ!!!」
ドーン!
「ひやああああ!!!」
……。
雷が大の苦手だったらしいリュックの懇願に折れて、俺たちは旅行公司にいる。
ユウナは部屋に引きこもっちまうし、リュックはずーっとあの調子。
取り敢えず俺たちは軽い食事をして、これからの旅に供える。
ルールーはユウナに食事を持っていった。
ワッカは窓辺で雷を眺めてる。
キマリは多分ユウナの部屋の前で門番宜しく立っているんだと思う。
アーロンは姿が見えないからきっと部屋で武器の手入れでもしてるんだと思う。
よし。
俺は椅子から立ち上がると、ワッカ達に休んでくると告げて部屋へと向かった。
「アーロン、入るよ」
返事も待たずに扉を開けると、やっぱり武器の手入れをしていたアーロンと目が合った。
「アーロン、俺、寝るから時間になったら起こして」
「自分で起きるんだな」
「目覚まし時計無いから無理」
アーロンが目覚し時計代理。ハイ決定。
アーロンが腰を下ろしているベッドの隣りのベッドに倒れ込み、ぺぺいっと靴を脱ぎ散らかす。
「靴ぐらい揃えろ」
ほらアーロンの文句が飛んで来た。へいへいすんませんね。
もぞもぞと寝転んだままベッドの下の靴を揃え、俺は今度こそ寝る体勢に入る。
「おやすみ、アーロン」
「ああ」
昔はちゃんと「おやすみティーダ」って言ってくれたのにな〜。
なんて思いながら眼を閉じてると、良い感じに眠気が訪れる。
あー、シーモアとユウナの結婚式の夢とか見ませんように。



「……ロン…」
不意に聞えたティーダの声に、アーロンは顔を上げた。
寝言かと隣りのベッドを見ると、案の定ティーダはすやすやと寝こけていて。
「……」
アーロンは眠るティーダの枕元に立つと、そっとその頬に触れる。その手を形の良い頬に沿って撫でると、微かにティーダが微笑んだ。
その微笑みにつられるようにアーロンの表情も微かに和らぐ。
この瞬間をどれほど愛しく思っているか、お前には分かるまい。
だが、この子にそうと分からない様にしているのもまた自分。
アーロンは自嘲気味に唇を歪めると、すぐにいつも通りの無表情に戻してその細い肩を揺すった。
「ティーダ、時間だ」





(2003/05/21)

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