タイムリベンジャー




ティーダという少年に付いて。
年は十七。出身地、親の生死は不明。
家族構成は父と母と自分だったらしい。
どんな人物だったか、等の事も一切不明。
記憶は完全に喪失したわけではないらしく、覚えている事もあるようだ。
本人曰く、靄が掛かった様、または微透明な布で覆われている様、らしい。
どうやらジェクトが苦手の様だ。気持ちは分からないでもないが。
そして何故か自分は懐かれている。悪い気はしないが照れ臭い。
ちなみにジェクト自身は彼を好んでいるようで、逃げられようが何だろうがティーダを構いたがる。構われる方は良い迷惑、というよりどこか途惑っているようだ。
性格は多少突っ走る傾向にあるが、能力的には優れていると思われる。
…こう言うと彼の少年は怒るのが目に見えているから言わないが、ジェクトに似ていると思う。
ヤツほど馬鹿な事はしないが、根本的なものが似ている感がある。
名前や眼の色もヤツの息子と同じらしい。髪の色は多少違うようだがそれくらいはどうにでもなるとジェクトは笑っていた。
真実、ティーダが彼の息子であるかどうかはわからないが、少なくともジェクトはそう思っている様だ。
彼の愛剣、フラタニティは仲間から貰った大切な物らしいが、その仲間が誰であったか等は覚えていない様子。
素早い動きを活かした連続攻撃を主軸とし、多彩な技や魔法も取得している。
記憶障害の所為か、余り流暢に言葉を紡がない。
これは徐々に治っている兆しはある。
考え込むと幼子の様に下唇を弄り、する事が無いと指先の薄皮を爪で摘まんで千切る。
撫でるだけの唇へのそれとは違い、時折血の滲む指先へのそれを諌めると、泣き出しそうな表情で謝ってくる。
ごめんなさい、と。
まるで粗相を親に叱られた子供の様に。
それでも半刻もする頃にはまた繰り返す。
日を追う事にぼろぼろになっていく彼の指が痛ましくて、己が主にそう告げると、主はいつもの穏かな笑顔で得たように頷いた。
寂しいのだと。
自傷行為は、相手に構って欲しくて行なうのだと。
確かにティーダが指先を弄るのは、決まって自分が武器の手入れをしている時で。
だが、だからとどうすれば。
途惑う自分に、簡単な事だと主は笑う。
別に、優しい言葉を掛けてやるとか、そういったものでなくても良いんだよ、と。
隣りに座らせてお上げなさい。
只々、ぽん、とその頭を撫でてお上げなさい。
子供は、それだけで喜ぶものなのだよ。






(続く)



(2002/04/06/高槻桂)

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