タイムリベンジャー




「もうすぐビサイドだねぇ」
ミヘン街道の何分の一程度とは言え、それでも延々と続いた一本道の終わりが見えて来た頃、ブラスカは相変わらずのんびりとした口調でティーダに声を掛けた。
「ビサイドに来た事はあるのかな?」
ブラスカは事ある毎にティーダへ問い掛ける。
あれは知っているか、これは聞いた事があるか。
ティーダの記憶の為というのが一番の理由だろうが、どうやらブラスカ自身がティーダに接するのが楽しいらしく、ティーダを構おうとするジェクトをさり気無く遮ってまで話し掛ける始末だ。
「うー…来た事、ある、うん、ある。えっと…」
唇に右手を当てて小首を傾げ、あ、とその両目を大きく開いて手にしたフラタニティを目の前に翳す。
「これ、フラタニティ、貰ったっす!」
「へえ、じゃあティーダ君の事を知っている人が居るかもしれないね」
でも残念だなァ、とブラスカはさもわざとらしく溜息を吐いた。
「これでティーダ君の身元がわかってしまったら一緒に旅が出来なくなってしまう」
更には寂しいなぁ、とこれ見よがしに寂しげな表情をすると、小さい子はまんまとそれに引っ掛かってブラスカの袖を掴む。
「俺、一緒に旅したい!一緒に旅する!!」
だから、だからそんな顔しないで、と必死で訴えるティーダにブラスカは先程までの沈痛な面持ちは何処へやら。にっこり笑顔でティーダの頭を撫でた。
「嬉しいねえ。やっぱり人間純粋が一番だよね」
ねえ?と背後の二人を振り返ってみれば、相変わらずの仏頂面の男が一人。そしてブラスカに邪魔をされてぶーたれている男が一人。
「はあ…」
「んなこたどーでも良いからティーダ返せ!」
曖昧な相槌を打つアーロンとは対照的に、ティーダを構いたいオーラ丸出しで喚くジェクト。
「うーん、じゃあティーダ君、ティーダ君は私とジェクト、どっちが良い?」
「ブラスカさん!」
「オイコラ!」
「ジェクトキラーイ!」
即答され、尚且つジェクトに「べーっ」と舌を出すティーダにジェクトが詰め寄ると、ティーダはけらけらと笑いながら駆け出し、捕らえようと伸ばされるジェクトの手から逃れていく。
「アーロン助けて!」
笑いながら腕の中へ飛び込んで来たティーダを、苦笑混じりに受け止めてやる。
「ジェクト、余りティーダを」
「いーから!」
何が良いのか、ジェクトはアーロンからティーダを奪い、軽々と抱き上げた。
「うっわ?!」
「お前ちゃんと食ってんのか?すっげー軽いぜ?」
そのままジェクトの肩に座らされてしまったティーダは離せ降ろせと暴れ出した。
「ほー?離すぞ?離して良いんだな?」
「うわっ!ちょ、待っ!」
ぱっと脚に回された手が離れた途端ぐらりと体が傾ぎ、ティーダは慌ててジェクトの頭に縋り付く。
「おーろーせー!!」
「おいジェク」
「アーロン」
いい加減にしろと声を上げようとしたアーロンをブラスカが止めた。
「嬉しいのだよ、ジェクトは」
騒ぎながらも前を行く二人を眺めながらブラスカは微笑む。
「あの子が本当にジェクトの息子なのかどうかはわからないけど、ジェクトはそうだと思っているみたいだしね」
いや、とブラスカは己が発言を取り消した。
「そうだと、思いたいのだろうね」
「何故、ですか?」
「ジェクトが言っていただろう?息子可愛さに泣かせてばかりだったと。後悔しているのだよ、あれでも」
「ですが…」
ジェクトはまた同じ槌を踏んでいるようにしか見えない。
「大丈夫だよ。ほら」
示されるまま視線を転ずると、そこには先程まで喚いていた二人の姿があった。
「アンタの事嫌いだっつってんじゃん」
「んじゃ降りるか?」
「……」
「イテッ!髪引っ張んな!」
「好きにすればっ!」
結局ティーダがジェクトの肩から降りる事はなく、二人はそのまま前を行く。
「ね?」
「……」
それを何とも言えぬ思いで見ていると、おや、とブラスカが笑った。
「もしかしてアーロン、嫉妬かい?」
「は?!ブラスカ様、何をおっしゃられるのです!」
「え?違うのかい?あ、早く行かないと置いてかれてしまうよ」
「ぶ、ブラスカ様!!」
反論の余地を与えず、さっさと先行く二人の元へ向かう主の言葉に、アーロンは動揺を隠しきれないといった面持ちでその後を追う。
「嫉妬など…」
するわけがない、と思いながらも、では何故、と思う。
何故、こんなに苛付くのかと。





(続く)



(2002/04/07/高槻桂)

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