伝えたい時伝えたい事
「お前、ザナルカンドのヤツなのか?!」 お前も飛ばされて来たのかと問う声に、そうだよ、と顔を歪めて笑う。 アンタに連れてこられたんだよ。 「だから、アンタの事はよく知ってる」 ユウメイジンだから、と付け加えるとジェクトはあっさりと納得してしまう。 「アンタの大事なティセラは死んだよ」 「何だと!」 それが怒りなのか、驚愕からなのかは分からなかったが、胸倉に伸ばされた手を、ティーダは後ろに飛んでそれを避けた。 「アンタが居なくなってから、母さんはどんどん衰弱してってそのまま死んじゃったよ」 「「「母さん?」」」 見事にはもった三人の声にティーダは我に返る。 「お前、まさか」 「言うな!!」 俯きながら強く拳を握り締め、ジェクトの声を遮る。 「違う違う違う!!俺は一度も見てもらえなかった!倒れてからは名前すら呼んでもらえなかった!母さんの口からは「ジェクト何処へ行ったの」「ジェクト帰って来て」「ジェクト」「ジェクト」「ジェクト」!!!」 一度箍が外れてしまえば、感情というモノは留まりを知らないかの様に溢れ出し、悲鳴を上げる。 「だから言ってやったんだ、「ジェクトなんてとっくに死んでるよ」って!母さん、笑ったんだ、笑って「お前がお父さんの事、大嫌いなんて言うからお父さんは居なくなったのよ、どうせいなくなるならお前だったら良かっ」た、て…」 最後は声にならず、喉の奥で塊となって出て来てはくれなかった。 かしゃん、と手にしていたフラタニティが落ちる。 けれど目の前も己の涙で見えず、ぼんやりと地面とフラタニティの色が反射している。 じゃり、と土を踏む音が目の前で止まった。 「……触、なっ…」 俯いた頬に伸ばされた節ばった指に、ティーダは声を上げる。 それは涙で濡れた頬を拭い、顎へと回って持ち上げられた。 「やっ…」 逃れようとするが、思いの外しっかりと捕まれており、ティーダは涙の溢れる瞳をぎゅっと閉じてジェクトの視線から逃れようとする。 「泣き虫はかわってねえんだな」 呟くような声に、そっと目を開く。 幼い頃見た、嘲笑うような色も、何も無い表情。 「ティーダ?」 部屋に閉じこもった子供をそっと呼ぶような声。 「…うん…」 「本物か?」 「……うん…」 頷くと、抱きしめられた。 「すまねえ」 たった一言。 「……っ…」 その、たった一言が。 「……ごめんなさい…」 涙が、また溢れ出す。 「何がだよ?」 耳元で響く低い声。 抱きしめてくれる腕、首筋、体温。 「酷いこと言って、ごめんなさい……」 とても、嬉しくて。 「お前が謝る事じゃねえだろ…」 謝って欲しかったわけじゃない。 けれど。 「ホントは、こんなこと言うつもりじゃなかったんだ…」 恐る恐ると背に腕を回してみる。 けれど、それが、とても嬉しくて。 からかいでもなく、声をかけてもらえたのがとても嬉しくて。 「ごめんなさい」 「はーいはいはいはい、そこまでね」 ぎゅうっと抱き合う二人にぱんぱん、と手を叩きながら水を差したのは勿論ブラスカ様。 「んだよブラスカ、邪魔すんじゃねえよ」 「いやーどうも君が幸せな光景って違和感感じるんだよね」 さり気に酷い事を笑顔で言われ、ジェクトは閉口する。 「だってね、ティーダ君に聞きたい事が沢山あるんだもの。ティーダ君が成長してるのは君たちのいたザナルカンドとスピラでは時間の経過速度が違うとかからなのかな、とか、どうやってこの時代に来たのかな、とか。ね?」 「あ……えと…」 何処から話して良いものか悩んでいると、じゃあこうしよう、とブラスカが手を打った。 「そろそろ日が暮れそうだし、今日はここで野宿しよう。そうすればゆっくり話ができるでしょう?」 という事でジェクトとアーロン、薪集めて来て。 そう指示して自分はどっこいしょ、と近くの岩の上に腰を据える。 「ティーダ君はこっちにおいで」 「ちょーっと待てブラスカ!普通こういう時は気を聞かせて二人にするとかするだろ!!」 「だって君とティーダ君を二人きりにしたら何があるか心配で心配で」 ちっとも心配そうじゃないその笑顔に、コイツはこういうヤツだと文句を垂れつつジェクトはアーロンと共に薪集めの為に森へと入っていった。 「…聞いても、良いかな」 二人の消えていった森を見詰め、ブラスカは隣りに座るティーダに問う。 「はい」 「君は、どこから来たの?」 「……10年後の、グアドサラムの近くからです」 「ジェクトと同じようにザナルカンドから飛ばされたんだ?」 「はい」 「という事は、シンはまだいるんだね」 ふ、と小さく笑うブラスカに、あ、とティーダが失言だったと声を上げる。 「気にしなくて良い。君の言葉によって私が旅を止める事はありえないから。ほんの短い間だけでもナギ節を齎す事ができるなら、私は旅を止めたりはしない」 「スピラが、好き、だからですか…?」 そうだね、とブラスカは笑った。 やっぱり親子だな、と思う。 ユウナと同じ笑顔だと、感じた。 (続く) (2002/03/31/高槻桂) |