4月24日の花:ネモフィラ=愛国心
ミッターマイヤー/銀河英雄伝説




皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムが逝去した後、漸くミッターマイヤーは軍務尚書の、パウル・フォン・オーベルシュタインの死を知らされた。
「オーベルシュタインが、死んだ…?」
ミュラーが経緯を説明する間、ミッターマイヤーは微動だにせず、困惑と驚きを貼り付けた表情でミュラーを見ていた。
「こちらです」
通された部屋は、焦げ臭さと血臭で満ちていた。
既に施すことの無くなった医師と下士官が敬礼をしたが、ミッターマイヤーの視界には入っていなかった。
ソファの上に横たわるパウル・フォン・オーベルシュタインにのみ注がれていた。
「皇帝もご逝去なされ、そして卿まで逝くのか。天上にまでついていくとは大した忠臣ぶりだなオーベルシュタイン」
ミッターマイヤーは時を刻むことを放棄した軍務尚書を見下ろし、呟くように語り掛ける。
「…卿は自分が死んで喜ぶ者はいても悔やむ者はいないとでも思っているのだろうな」
そこで一旦言葉を切り、ミッターマイヤーはきつく拳を握り締めた。
「オーベルシュタインッ…」
声を荒げているわけでもないのにその声は室内に不自然なほど響いた。
「俺は、嫌だ」
ミッターマイヤーは唇を噛み、そして呻くような声を微かに漏らした。
「…俺は泣いてなどやらんぞ。卿のために流す涙など持ち合わせてはおらん」
そして胸中に蟠るものを断ち切るように踵を返し、扉の所で見守っていたミュラーの脇を足早に通り過ぎる。
また、間に合わなかった。
ロイエンタールの時も、そして今も。
「疾風の名が聞いて呆れるっ…」
足早に通路を突き進みながら、ミッターマイヤーは口中で小さく呟いた。

 

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