4月28日の花:ムラサキハナナ=知恵の泉
??/ハリポタ恋シミュ




「リヒャエル!リヒャエル!」
広く古めかしい洋館に初老の女性の声が響いた。
「何だい」
庭から室内へとひょっこり顔を覗かせたのは、この屋敷の主人であるリヒャルト・ローゼンリッターだ。
しかし、実権を握っているのはどちらかというとそのリヒャルトへ苛立たしげな声をぶつける老女の方だった。
「オイゲンが何処にいるかご存知?」
リヒャルトはしばし視線を浮かせ、そして「あーぁ」と妻へと向き直った。
「ヤツならイザーク君の所じゃないかね。さっき、イザーク君のふくろうが来ておったからの」
すると老女は「まあ!」と一層声のボリュームを上げた。
「今日は魔法省の方がいらっしゃるから出かけないようにと言っておいたのに!」
「まあまあ、アシュームや。魔法省は君に用があるのであって、オイゲンに用があるわけではないだろうに」
しかしアシュームと呼ばれた老女は「でもあなた、」と続ける。
「オイゲンが居たほうが魔法省の方たちも気張らずにすむじゃないですか。あの子のご同僚なのですから」
「良いではないか。彼らとて仕事でこちらへ来るのだから。ほれほれ、そのお客様にお出しするケーキを焼いてる最中じゃなかったのかね?」
すると老女ははっとしたように「あらいやだ、そろそろ見てこないと」と呟きながら厨房へと向かってしまった。
妻の後姿を見送ったリヒャエルは、小さく笑みを浮かべながら薔薇の手入れを再開すべく庭へと戻っていった。


その頃、彼らの息子であるオイゲン・ローゼンリッターはというと。
「娘が魔法薬学方面に進むのは嫌だというんだよ、イザーク」
案の定、親友であるイザークの屋敷に居座っていた。
「才能もバックボーンもある。なのにあの子はどうしても嫌だと言う」
「まあ、仕方ないんじゃないかな?」
オイゲンの向かいに座る男は苦笑しながらひょいっと杖を振り、空になったカップの中に二杯目の紅茶を満たした。
「才能があることと、進みたい方向が同じものだとは限らないし、何よりやりたくないものをやらなくてはならないという事ほどつらいことは無いと私は思うのだけどね」
「イザークぅ…」
いい年したおっさんが拗ねるのを見て、イザークと呼ばれた男は苦笑を深める。
「それで、君の娘はどの方面に進みたいんだって?」
「そこまではまだ決まってないみたいなんだが…そっちはどうなんだ?」
「マーリスかい?うん、まあ魔法生物の学者になりたいとは言ってるよ」
イザークは砂糖壷から角砂糖を二つ落とし、その塊をスプーンの先で突いては崩していく。
「ところで、オイゲン」
「何だ、イザーク」
オイゲンが釣られるように彼の名を呼ぶと、イザークは紅茶をスプーンでかき回しながら友を見た。
「今日は魔法省の方が君のお母さんを尋ねてくる日じゃなかったかな?」
一瞬、オイゲンの時間は停止した。
「……明日じゃなかったか?」
寧ろそうであってくれと言わんばかりのオイゲンに、イザークは容赦なく壁にかかったアンティークな時計を指差した。
「………」
紛う事無く今日がその日だと時計の日付は告げている。
「しまった!すまないイザーク、失礼する!!」
がたんっと盛大な音を立てて立ち上がったオイゲンはこれまた派手な音を立てて「姿くらまし」た。
「やれやれ…」
一人残されたイザークは紅茶を啜りながら小さく肩をすくめた。

 

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