4月30日の花:ジンジャー=あなたを信頼します
ロイエンタール、ミッターマイヤー/銀河英雄伝説




その夜、ミッターマイヤーはロイエンタールの旗艦・トリスタンを訪れていた。
ワインを酌み交わしながら、不意にミッターマイヤーは親友の視線が自分の髪に注がれていることに気づいた。
「何だ、俺の髪に何かついているか?」
「いや…ただ、我が皇帝がよくジークフリード・キルヒアイスの髪を弄っていたのを思い出してな」
ロイエンタールの言葉にミッターマイヤーはそういえば、と記憶の引き出しを漁った。
確かに、ラインハルトが時折キルヒアイスの赤毛をその白磁の指に絡めていたのを思い出した。
「そんなこともあったな。それがどうかしたのか?」
「いや…」
だがロイエンタールの言葉はそこで途絶え、再びその色彩の異なる両の目で凝乎とミッターマイヤーを見ている。
「ロイエンタール?」
呼びかけられた主は徐に席を立ち、ミッターマイヤーの傍らに立った。
「?」
そしてその指がミッターマイヤーの収まりの悪い蜂蜜色の髪の一房に絡められる。
「ふむ…」
もう片方の手をその形の良い顎に当て、その感触を、そしてなぜかミッターマイヤーの反応を吟味するように頷いた。
「何なのだ?」
「他人に髪を触らせるのは、相手を信頼していないと出来ない行為だそうだ」
「ほう?」
ロイエンタールに髪を玩ばせるがままにミッターマイヤーはそのグレーの瞳で傍らの男を見上げる。
「では俺はお前を信頼しているということか」
悪戯っぽさを滲ませたグレーの瞳に、ロイエンタールはその口元を綻ばせた。
「もう何ランクか上だと自負しているが?」
そして髪に絡めていた指を含む五指を差し入れ、柔らかく梳いてその頬に滑らせるとミッターマイヤーは擽ったそうに喉を鳴らした。
「今更だな」
「ああ」
その手に導かれるままに男を見上げると、黒と青の眼がその色とは裏腹に柔らかな色を湛えて近づき、ミッターマイヤーは穏やかな笑みと共にその眼を閉じた。

 

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