5月3日の花:キンポウゲ=楽しみ到来
アリス/有栖川、銀英伝




注:この話は有栖川部屋にある、「有栖川有栖IN銀英伝」の続編です。




教壇に立ち、教室内をざっと見渡して僅かにぎょっとした。
入りはいつもと同じくらいなのだが、明らかに生徒ではない者が居た。
一人は馴染みの席に座ったアリス。彼は童顔とその雰囲気の所為から案外この教室に溶け込んでいる。
だが、問題はその隣りだ。
アリスの知り合いなのだろうか、少なくとも彼に日本人以外の友人が居ると聞いた事はない。鮮やかな蜂蜜色をした青年がアリスの隣りに腰を下ろし、ぼそぼそと何やら言葉を交わしている。
遠目からも分かるほど青年は日本人には無い整い方をした顔立ちをしていた。
最後列の所為もあって生徒たちは気付いていないものも多い様だが、教壇に立つとそのハニーブロンドは目立った。
火村は何事も無いような顔をして講義を始めたが、やはり気になってちらりと彼らを見上げる。
講義の始まるまではこそこそと言葉を交わしていた二人も、真剣に講義を聴いている。
否、聴いているのは青年で、アリスはその姿勢に話し掛けられなくなった、という所だろう。
火村は彼らから視線を外すと、黒板へと向き合った。



講義が終わり、案の定こちらへ上がって来た火村にアリスは先制とばかりに口を開いた。
「ウォルフガング・ミッターマイヤー言うてな、お母んの友達の息子さんや。お父んがドイツ人やねん。久しぶりにこっち来たもんで俺がここら案内してん」
勿論嘘である。だがここで本当の事を告げたとて火村の失笑を買うだけだと分かっているので予めそういう事にしておこうと打ち合わせておいたのだ。
「はじめまして。突然お邪魔して申し訳御座いません」
「はじめまして、火村英生と申します。生徒以外が紛れ込むのは珍しい事ではないのでお気になさらず」
なんやそれは俺への当てつけかとアリスが内心で文句を零す。
「大変興味深いお話しでした。特に境界性人格障害と演技性人格障害の辺りが面白かった」
有り難う、と火村が返すとアリスが割って入って来た。
「なあなあ、今日はもうこれで終わりなんやろ?どっかでお茶しに行かへん?」
かくしてミステリー作家と助教授と艦隊司令官という奇妙な三人組みは生徒たちの視線を集めつつ、教室を後にする事となった。

 

 

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