5月7日の花:フクシア=恋の予感
ルッツ、ティーダ/FF10




ワッカに連れられ、きょとんとした表情を浮かべる少年を見た瞬間、二十年以上生きてきて初めて、これが俗に言う「一目惚れ」だと知った。
「さっきの人、チャップさんに似てましたね」
ガッタの言葉にルッツはそう言えば、と思う。
髪形やその色は違っていたけれど、その造形がどこと無く似ていた。
が、しかし。
「えっと、その…俺、「シン」の毒気にやられちゃって…」
しどろもどろになりながらそう言う少年。
正直な話、くらっとキた。
すまんチャップ、お前より遥かにかわいい。寧ろ犯罪的なほどだ。
こりゃ「シン」も無事に帰したくなるな、と納得してしまったくらい。
まさにエボンの賜物。
そんな言葉がぴったりな少年。
男に惚れるなんて我ながら救いようが無いと思いながらも、あれこれと気に掛けてしまう。
とは言っても彼の身元引受人はワッカだったし、俺自身忙しい身だったから余りでしゃばったことはできなかったけれど、彼が同じ船でビサイドを出ると知った時は不謹慎だと思いながらもミヘン・セッション万歳といった気分だった。
まあ同じ船っつっても俺らは積み荷の見張りだから、話し掛ける所か出歩く事も出来ないんだけどな。
向こうから声掛けてくるわけもねえだろうし。
「なあ、何してんすか?」
と思ったらどうやら運命の女神は俺に好意的らしい。
なんと向こうから声を掛けてきたのだ。
「何って、見張りさ。中途半端な立場にいると、任される仕事も重要なのか雑用なのかわからんモンをやらされるんだよな」
気の利いた台詞も浮かばず、寧ろ愚痴混じりに答えると、彼は特に気を害した様子もなく「へーぇ」と頭の後ろで手を組んで俺を見上げてきた。
「大変っすね」
「いや、「シン」を倒すためなら雑用だろうが何だろうがやるさ」
「そっか、頑張れ。在り来りな事しか言えなくて悪いけどさ…」
「いや、有り難う」
ミヘン・セッションは機械を使うために世間からは強い反発を受けている。非難されることは多々あったが、頑張って、と励まされたのは初めてだった。
「ティーダ!」
二人が呼ばれた方を振り返ると、甲板口からワッカが手を振っていた。
「今行く!じゃ、また明日!」
ひら、と手を振って踵を返す少年へ同じ様に手を振り返し、もう一度小さくつぶやいた。
「ありがとう」

 

 

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