5月8日の花:カスミソウ=切なる願い
ルッツ、ティーダ/FF10




「よぉ。もう、大丈夫なのか?」
異界送りと各々たちによる弔いが漸く終わりを見せた夜更け、殆ど壊滅状態のキーリカでひとまずの修理を手伝っていると、「シン」と戦って怪我を負ったはずのティーダがすぐ目の前に立っていた。
「ん、もう大丈夫ッス」
心配してくれてさんきゅ、と笑う少年に、ルッツは手にした金鎚を置いて立ち上がった。
「本当に、心配した」
「うん…」
手を伸ばし、軽く俯いたその金の髪に指をそっと差し入れる。
驚いて逃げるかと思われたそれは、ティーダがその手に頭を預けるように傾げることで覆された。
「…聞いても良いか?」
「ん?」
「……ザナルカンドから来た、ってのは本当か?」
ザナルカンド。その名を聞いた途端、彼の柔らかな笑みは強張った。
「…ワッカから聞いたんスか…」
「すまん」
その金糸に絡ませた手を引くと、彼は謝ることじゃないって、と苦笑した。
「……「シン」の毒気にやられたヤツの戯言だと思ってくれて良いから、聞いて欲しいッス…」
ティーダは視線をキーリカの残骸があちらこちらに浮かぶ夜の海へと向けた。
「確かに、つい最近まで俺はザナルカンドで暮らしてた。だから、こんな悲しい世界があるなんて、知らなかった。「ここ」に来るまで「シン」なんて知らなかったし、魔物だって本当に稀で、出たって街に入る前にガードシステムが倒すから実際に見たことなんてなかった」
凄く平和な街だった、と語る少年の声はとても懐かしげで、寂しげだった。
「親のいない子供は後ろ指指されるくらい両親が揃ってるのは当たり前でさ。…考えなきゃならないのは生き抜く方法じゃなくて、今日の夕飯何にしようとか、そんな平和ボケしたことばっかでさ。今思えば、俺が感じていた不満なんて本当にささいなことだったんだ」
帰りたいか、とは聞けなかった。彼の儚げな表情が、それを切実に語っていたから。
「本当に、恵まれてたんだなって…思った…」
彼の視線は海を越え、遥か遠く、最果ての地を想っているのだろう。ルッツはその横顔を、ただ見詰める事しかできなかった。

 

 

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