5月11日の花:サンザシ=唯一の恋
テジン/純愛中毒




兄の肉体は燃え、たったこれだけの灰になってしまった。
テジンはしっかりと手袋を嵌めた。
その灰に素手で触わる事は、してはいけない事だと思った。
礼儀とか習わしとかそういう事ではなく。
純粋に、自分が兄に触れる事は許されないと思ったのだ。
兄であったその灰を、直に感じる権利は自分には無いと思ったのだ。

兄さん。
優しい兄さん。
大好きな兄さん。

兄さんが少しずつ、この掌一杯ずつ海へ溶けてゆく。

離れた所でウンスがテジンの背を見つめている。
否、テジンの肉体を持つホジンの背を見つめている。
彼女はテジンを見ない。
彼女の中にはホジンしかいないのだ。

灰は殆ど海へ溶けてしまった。
あと何回か海へ溶かせば兄は全て海へと還る。
テジンの視界はずっと滲んだままだ。

涙のヴェールの向こう、一瞬の幻が過ぎていった。

兄が笑っていた。ウンスも笑っていた。
自分も笑っていた。

それだけで良かったのに。

「兄さんの事も大好きだったんだ…ウンスと同じように大好きだったんだ…!」
兄さんからウンスを奪った。
ウンスから兄さんを奪った。

ファン・テジンという存在を許すな、許さないでくれ。

お願いだから。
「愛していたんだっ…」

どちらかだけを愛する事なんて出来なかった。
兄への愛とウンスへの愛は別々のものではなく。
同じ恋だった。たった一つの恋だった。
「兄さん、ホジン兄さんっ…」

何を泣く。何を嘆く。
こんな幸福はない。
狂おしいほど愛した二人を手に入れたじゃないか。

何を泣く。

「兄さんっ…」
その灰を、素手で触わる事が出来ない。

 

「純愛中毒」を観終ってすぐ思い付いたネタ。
なんていうか、もう、思った通りのオチでした。面白かったけどね。
この映画を見て思うのは、
「ああ、テジンはホジンが本当に好きだったんだなあ…」
という事でした。ウンスは?え?あら?
腐女子なんてそんなもんよね。

 

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