5月12日の花:シラン=互いに忘れないように
ブライ、鉄也/CASSHERN




何が起こったのかを理解するに、暫しの時間を要した。
男はゆっくりと上体を起こす。
全身の痛み。
どういう事だ。
何故。
何故私は生きているのだ。
どさり、と自分の上に乗っていたモノが瓦礫の上に落ちる。
美しい黒髪を持つ、強く優しい少女。
上月ルナ。
頭部を打ちぬかれて絶命している。
東博士も、ミドリも眠るように横たわっている。
どうすればこんなにも穏やかな、死顔を。

広がる荒野。
赤い空、赤い大地。
佇む青年。

「…鉄也」

弾かれるように青年が振り返る。
血や泥で汚れた顔、否、全身がそうであった。

「何故、我々は生きているのだ」
鉄也は答えない。

今、この状況を問うたのではなく。
ただ、わからなかった。

「何故、我々は生きているのだ」
もう一度問い掛けた。
鉄也にではなく、自分自身へ。

湧き出すのは驕りへの怒り。
滲み出すのは拒絶への悲しみ。
膨れ上がる同胞の悲鳴。

鉄也が一歩、こちらへ踏み出した。
「来るな」

今は、もう。
恨みを晴らしたいのではなく。
怒りを列ねたいのでもなく。
悲しみをぶつけたいのでもなく。
ただ、静かに眠りたかった。

また一歩、鉄也が近づく。
「消えてくれぬのだ」

けれど湧き出すものは、
滲み出すものは、
膨れ上がるものは、
「それが私を支配する」

父を怨め。
人間を憎め。
「鉄也」
共に全てを滅せよ。

「何故、我らは生きているのだっ…」
お前とならば、人間どもを弑する事が出来ると願ってしまう。



「何故、私を生き返らせたっ…!」



最期まで私には何も見えなかった。
それが答えなのだろう。
だからもう、善かったのだ。
私が私である必要はもう無くなってしまった。
なのに何故、生き返らせた。

「鉄也!」
鉄也、
鉄也、
真に生まれ変わった者よ、
人ならざりし雷の子よ、
バベルの塔は崩れたのだ。
セフィロトの樹は枯れたのだ。

鉄也が立ち止まる。
徐にその腕が持ち上がり、指先が男の頬に触れた。
視線は、向き合ってからずっと絡んだままだ。
血と泥と煤に塗れた鉄也。そして自分。

嗚呼、
「…っ…」

鉄也は何も言わない。
男は憤りとも悲しみともつかぬ色に顔を歪めた。

そういう事なのか。

お前にその時が訪れなかった様に。
私にも訪れないのか。
先に逝った同胞たち。
彼らと同じ景色を見る事は永久に叶わぬのか。

「…っ!」
何かに突き動かされたように男は鉄也の体を掻き抱いた。
腕の中で鉄也が男の名を呼ぶ。


もう、お互いしかいないのだ。
その意味を、忘れてはならない。

 

私的CASSHERNエンディング。(爆)
バラシンたちが見たものとはまた違ったものが彼らには見えている、そんなイメージで書いてみました。どうでしょう?
鉄也には敢えて何も喋らせませんでした。拙いながらも私の目指したイメージが壊れてしまいそうだったので。
ルナではなくブライが生き返って二人で希望も無く朽ちていって欲しい。
ブライが鉄也を王座に引きずり上げたシーン、絶対キスすると思った。(真顔)
ていうかなんかこれ、ブライが受け臭い。待って違うのよ。(何が)

 

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