5月15日の花:ミズキ=耐久
上条、内藤/CASSHERN




あの老人の前で痴態を演じるようになって、もう五年も経ったのか。
薫はぼんやりとそう思う。
では、上条の家に仕えるようになってからもう十年ほど経っているという事か。
産まれてから今日までの人生の約半分をこの屋敷で過ごしたという事だ。
何とも言えない気分になった。
この屋敷で、色々と覚えた。
掃除の仕方、お茶の入れ方、振る舞い方、丁寧な言葉遣い等数えたらきりがない。
そして、上条老人の喜ばし方。
部屋に来い、という合図もすぐ察したし、衣服はどれくらいまで脱ぐのが好ましいのかも覚えた。
老人の前で脚を開く事も自慰に耽ける事にも、もう随分と馴れた。
そして同時に老人の息子には気取られぬ様にする事も覚えた。
その結果、私は老人とその息子、二人とものお気に入りと囁かれるようになった。
老人は薫を部屋に呼ぶ時以外に特別扱いは殆どしなかったが、その息子の方は目に見えて薫をお気に入りとしていた。
薫が時折老人の部屋を訪れる理由など、他の使用人たちは知らない。
だが、薫のその整った顔立ちと仄かに纏う色香、そしてその地位への羨望から中傷が生まれる。
目に見えて薫自身に聞こえるように囁かれたそういった類のものへは嘲笑と皮肉を見舞ってる薫だが、心中では強ち間違いではないと思っていた。
あの行為がどういう事か、薫自身が一番よく分かっていたから、その程度の誹謗中傷でその表情を崩す事はなかった。
ただ、水面下で囁かれるその中傷は時を経て収まる所か益々増えていった。
そして、一使用人だったはずの薫が日興ハイラルの幹部に抜擢された時、とうとうそれは水面を突き破った。
「内藤さん、ミキオ様がお呼びです」

 

戻る