5月19日の花:シデ=装飾
上条、内藤/CASSHERN




今更のようだが、内藤は好きで彼らに善い様にされているわけではないし、無感情というわけでもない。
男である自分が男に辱められるのは屈辱であったし、人前で自慰行為をするなど以ての外である。
ただ、逆らえば途端に自分は路頭に迷うだろう。
大切だった母と妹が居ない今、自分の叛意によって父がどうなろうと知った事ではないが、自身が食うに困る事は避けたかった。
最悪、処分される。
内藤は彼らに口外できぬ行為を強いられただけに、そうなる確立は高い。
下層階級の人間の扱いなど、所詮その程度のものだ。
内藤が真っ先に覚えたのは耐える事だった。
感情に無理矢理蓋をし、これも従事の一環だと割り切った。
蛇足だが、内藤が大人しいのは基本的に上条親子の前だけだった。
別に猫を被っているわけではない。
そうしていないと感情が暴走してしまいそうだからだ。
元来内藤はプライドが高く、臓躁的になる事も屡見受けられる。
理性派に見えて、根底は感情派だと言えるだろう。
そんな内藤の性格には上条親子共々気付いていたし、内藤自身、それを隠そうとはしなかった。
そもそも内藤自身は先述したように猫を被っている積もりも無ければ白地に態度を変えているという自覚すら殆どなかったのだから隠すも何も無い。
内藤の部屋は他の使用人たちと違い、上条邸本宅にある。
部屋も当然の様に一人部屋で、調度品もそれなりの物が揃えられている。
この時点で内藤が他の使用人たちとは違い、特別待遇だという事は明らかだ。
そこに拍車をかけるように部屋の移動を命じられた。
ミキオの私室から幾ばかりも離れていない部屋が、内藤の新しい部屋だった。
それは上条の人間の住まう館であり、本来ならば一介の使用人風情が腰を据える事など到底出来ぬ場所である。
この白地な待遇。内藤薫が上条親子の寵愛を一身に受けているのは明らかだった。
誹謗中傷に隠れがちだが、だからと内藤はその地位に甘んじているわけではなかった。
日興ハイラルにぽっと出の幹部としてやってきた内藤は、見る間にその頭角を現し、プロジェクトを瞬く間にこなしていった。
采の振り方も交渉の進め方も適切で、実力を伴った幹部として君臨した。
だがしかし、矢張り社内でも内藤が受け入れられる事はなかった。
上層部は内藤の手腕を称える裏側では侮蔑の、または好色な視線を向けてくる。
上条との事を知らぬ、または信じていない者たちも、内藤の少しでもミスをしようものなら即座に切って捨てるような傾向に倦厭しがちだ。
自分の指示したようにプロジェクトが進まないと癇癪を起こす事も屡だ。
元はといえば上条親子の相手をするストレスからの短気と勘気なのだが、そんな事は部下たちが知る由も無かったし、内藤自身その愚痴を漏らす事も当然有り得なかった。

 

戻る