5月26日の花:スカビオサ=恵まれぬ恋
上条、内藤/CASSHERN




鈍色に光る鉄の棒に貫かれた己の腹を見下ろし、内藤は漠然と思った。
人は、脆い。
たったこれだけの事で、この身体は激痛と限界を訴えている。
けれど、私はまだ死にたくない。
こんな結末も望んじゃいない。
私の望むものは、こんなものでもないのだ。
早く。
ずる、と思うように動かない体を引きずって内藤は新造細胞のプールへと向かう。
早く、早くあの中へ。
神の領域を侵したあの朱の海へ。

私は、生きて、

「!」
背中から胸元へ、灼熱が駆け抜けた。
銀の煌きがこの身体を貫いている。
振り向くだけの力は残っていなかった。
けれど内藤には自分を貫いたのが誰だかよく分かっていた。
唇の端が笑みの形に持ち上がり、けれど目元はそれに反して泣きそうに歪んだ。

そうだ。

喉の奥でごぼりとくぐもった音がする。
哄笑が血に砕かれた音だ。

これで、善かったのだ。

生きていたかった。
ほんの少し前迄は、心の底からそう願った。
けれど、もう善い。叶わなくて善い。
それこそが、己の望みだったではないか。
「…っ、かはっ…」
気管を逆流して駆け上がってくるそれを吐き出す。
「…これ、で…」
溢れ出す真っ赤な液体。
「……わ、たしは……やっと…っ…」
血より鮮やかな紅へと伸ばされたまま硬直している己の左手。
その手首に刻まれた数字の羅列。
認識コード。

これさえなければ
こんなものさえなければ


「…ひとり、に、……」
貴方を愛していると認める事が出来たのに。

 

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