5月27日の花:リアトリス=燃える想い 上条、内藤/CASSHERN |
落雷があった時、上条が通信室の前を通り過ぎた所だった。 「何事だ!?」 突然の轟音と衝撃。 それに動揺する将校たちを押し退けるように上条は通信室へと向かう。 「何があった!」 慌てふためいている職員を叱咤し、状況を問う。 すると落雷があったようだという応えが返ってくる。 しかも、寄りによって例の新造細胞研究施設に。 避雷針は何の役にも立たなかったという事か。 「ラボの状況は!」 「それが、落雷の影響かラボの監視カメラ、一切反応しません!」 上条が舌打ちした瞬間、室内にけたたましい音が鳴り響いた。 エマージェンシーコールだ。 「こちら第三通信室」 『内藤だ!』 回線が開かれたと同時に聞き覚えのある声がスピーカーを通して響いた。 『コード206、206だ!!早くしろ!早く!!』 それは初めて聞く、悲鳴のように引きつった内藤の声だった。 しかし、と上条は眉を顰める。 206、だと? 一体何が起こったのだ!? 「あっ、上条中佐!?」 将校たちを置いて再び通路へ出た。 通路にはコード206を伝える放送とエマージェンシーコールが引っ切り無しに響いている。 その中を足早に突き進み、研究施設のある棟へと向かう。 遠くから銃声が響いてくる。 一発や二発ではない。まるで戦場の様に絶え間なく響いている。 上条はエレベーターに向かいかけた脚を非常階段へと向け直す。 落雷があったばかりだ。止まるかもしれない、と非常階段を駆け下りた。 延々と続く階段を駆け降りる内に、上条の脳裏に先程の内藤の声が蘇る。 彼が部下に怒鳴っている姿を見た事はある。 けれど、あんな声は初めて聞いた。 焦燥と恐怖に引き攣った声。 作動しないモニター。 一体何があった。 何が起こっている。 「薫っ…!」 プロジェクトが始まってから血の匂いを纏うようになった薫。 お前は何処に居る。 お前は無事なのか。 だからあんな研究への投資は反対だったのだ。 老人たちの延命のための研究。 そんなものに何の価値がある。 生きている限り死は訪れるのだ。 それに逆らう事は生きている限り不可能だ。 羽化登仙を目指しているとでもいうのか。 馬鹿馬鹿しい。 自分しか護るものが無い醜悪な老人どもめ! 上条が施設に辿り着く頃には銃声は止んでいた。 内藤薫の姿はない。 死体の詰められた麻袋を運ぶ兵士たちの間を抜け、指揮をしている軍人の元へと向かう。 上条の姿に気付いた彼は咄嗟に敬礼をする。余り軍人らしくない格好をした男だと思った。 「上条中佐!」 「内藤はどうした」 「はっ!上条将軍の元へ報告に向かっております」 父の名に上条の頬の筋肉がひくりと震えた。 「…そうか」 安堵とも落胆とも取れる溜め息が一つ、上条の唇から零れ落ちた。 無事なら、それで善い。 「それで、何が起こったのだ」 |