5月28日の花:ジギタリス=胸の思い 上条、内藤/CASSHERN |
鈍色に光る鉄の棒に貫かれた己の腹を見下ろし、内藤は漠然と思った。 人は、脆い。 たったこれだけの事で、この身体は激痛と限界を訴えている。 けれど、私はまだ死にたくない。 早く。 ずる、と思うように動かない体を引きずって内藤は新造細胞のプールへと向かう。 早く、早くあの中へ。 神の領域を侵したあの朱の海へ。 私は、生きていたい。 生きていたい。 生きていたい。 生きていたい。 生きていたい。 生きていたい。 生きていたい。 わたしはまだ、あなたと… 「!」 背中から胸元へ、灼熱が駆け抜けた。 銀の煌きがこの身体を貫いている。 振り向くだけの力は残っていなかった。 けれど内藤には自分を貫いたのが誰だかよく分かっていた。 唇の端が笑みの形に持ち上がり、けれど目元はそれに反して泣きそうに歪んだ。 胸中を過ぎった切なる想いは掻き消え、代わりに酷く暗澹とした思いが支配した。 矢張り、貴方は私を殺すのですね。 「…っ、かはっ…」 気管を逆流して駆け上がってくるそれを吐き出す。 溢れ出す真っ赤な液体。 その手で殺したいほど憎かったのですか。 それほどまでに、私は貴方に憎まれていたのですか。 喉の奥でごぼりとくぐもった音がする。 笑い声が砕けた音だ。 ああ、可笑しくて堪らない。 |
内藤死亡シーンの没ヴァージョン。映画版と小説版ごちゃ混ぜ。
実は小説版を読んで一番始めに浮かんだネタがこのネタでした。
が、5月26日以前までの話が浮かんだ時、話が上手く繋がらないと気付いて没りました。
でも私の中の上条×内藤観だとこっちの方が近い気がします。
最期になって漸く自分の気持ちを認めかけたんだけど、結局それを打ち消してしまう。
上条は不器用な、内藤は愛情表裏一体な愛し方をしそうなイメージが。
内藤はその生い立ち故に愛し方や信じ方を知らないし、上条はその気質から自分から言う事が出来ず、
相手が悟ってくれるだろうと逃げる。
だからこの話でも、上条は多分苦しむ内藤を見ていられず、楽にしてやりたくて止めを刺したんだろうけど(私もよく分からん/をい)内藤はそれを、せめてこの手で止めくらい刺してやらなければ気が済まないくらい憎いとでも思ってるんだろうなーと受け取っているという。
見事なすれ違い。
本当は映画版の始めの方で「206なんて誰が出した!」とか何とか怒鳴ってる軍人も絡めたかった。