6月1日の花:ダマスクローズ=美しい姿
上条、薫/CASSHERN、観用少女ダブルパロ




プランツ・ドールというものをご存知だろうか。
それはとてもとても高価な、庶民には手も出せないような価格のお人形だ。
だが「彼女」たちは一級品のビスクドォルなんて足元に及ばないほど美しく、愛らしく、そして何より素晴らしいのは、彼女たちは自分の意志を持つ人形だということだ。
彼女たちは毎日三回、高価な器でミルクを飲む。それが主食だ。
そして時折、肥料として専用の砂糖菓子を与えたり、香り玉を与えたり。
そうして毎日豪華な絹のドレスや着物を纏い、自由気侭に過ごしていく。
だが、何よりも大切なのは主の愛情。
それが無ければ忽ちプランツは枯れてしまうだろう。
彼女たちにとって愛されるという事は存在意義そのものなのだ。
さて、その名の通り彼女たちは全て少女の姿をしている。
顔立ちは様々であるものの、人形屋に並ぶプランツたちは全て少女だ。
しかし、ある「名人」が試作品として「変わり種」を育て上げた。
少年のプランツだ。
亜細亜系の顔立ちをしたそのプランツは黄色人種の、けれど白人に近い白い肌を持ち、髪は烏の濡れ羽色。
長い睫毛、ほんのり桜色の唇。
何処までも沈んでいきそうなほど深い、漆黒の瞳。
その少年のプランツは他の少女たちと同じように豪華な絹の衣類を纏い、自分を愛してくれる主人が現れる日を椅子の上で待ち続けていたのだが、その日は思いの外早く訪れた。
店を訪れたのは、壮年の男。
テレビや雑誌で誰もが見かけた事があるだろう政治家の男だった。
彼はどうやら件の少年のプランツを見に来たらしかった。
店員に導かれた男がその少年型プランツの前に立つと、プランツの瞼が微かに震えた。
ゆっくりと開かれる漆黒の双眸。
おや、と定員が驚きの声を上げた。
ミルクの時間以外でこのプランツが目を覚ましたのは始めてだったのだ。
ふんわりと微笑むプランツに、これはこれは、と店員は札と筆を取り出す。
「お客様、こちらのプランツはご覧の通り少年型の試作品に御座いますのでこの様なお値段でご提供させていただいております」
試作品といえども稀少な少年型。最高級のプランツより一歩二歩下がった程度の値段だったが、それでも男はあっさりと小切手を切った。
そして店員の勧めるままに衣類、ミルク、香り玉、コンペイトウ等など一式を包ませた。
一括払いというのだからこの男の財力は確かなものなのだろう。
買い上げた衣類などは全て従者がトランクに詰め、男は自分のものとなった少年の手を引いて車に乗り込んだ。
男は然程嬉しそうでもなんでもなさそうだったが、傍らのプランツは穏やかに微笑んでいた。

 

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