6月13日の花:ゼラニウム(赤)=君ありて幸福
茜、大/鬼組




「茜」
屋上で寝そべっている茜の耳にすっかり馴染んだ声が滑り込んだ。
「やっと見つけた」
同時に視界を覆う見慣れた少年の顔。
「スイカ、置いていっちゃ駄目だろ」
ほら、と寝そべった腹の上に乗せられたのは真ん丸の瞳が愛らしいジャンガリアンハムスター。
「ん、ご苦労」
腹の上でちょろちょろとするスイカを見ながら気の無い返事を返すと大は茜の傍らに腰を下ろした。
「茜がスイカを忘れていくなんて珍しいな」
「あー」
間延びした応えを返しながら茜は傍らで笑う大を見上げる。
朝日奈大。
腕っ節は弱いくせに意地だけは一丁前な小柄な、まっすぐな少年。
東堂たちは大に石黒と同じ匂いを感じると言う。
茜もそれは同感だった。
だが、もう一人。
九十九とも、近いような匂いを感じてしまう。
けれど、だから大の傍にいるというわけではない。
大がこうして傍らにいると何故か自分の中に芯が通るような気がする。全身の力を抜いても立っていられるような、そんな気分になる。
大が傍らで笑っていると、自然と自分の唇も笑みを象っている。
けれどそれはそれで何となく悔しいので何でもかんでも大に奢らせていたりする。
「茜?どうかしたのか?」
じっと自分を見上げている茜に大は小首を傾げて問い掛ける。
「んー」
けれど茜はやはり間延びした応えしか返さない。
「?俺の顔になんかついてるとか?」
「おいウッキー」
「え?何?」
ぺたぺたと自分の顔を触わって確かめていた大はその呼び名にも馴れたのか、きょとんとしてそれに応じた。
「ここに居ろよ」
「え?」
首を傾げる大から視線を外し、再び空を見上げる。
「ここに居ろ」
「??わかった」
恐らく大には額面通りにしか伝わらなかったのだろう。
だが、それで善いと茜は晴れ渡る空をぼんやりと見上げる。
大は自分の隣に居る。
今はそれで十分だ。

 

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