6月14日の花:キョウガノコ=無益
財目、富家/ラストブロンクス




財目のアパートに勝手に入り込んでいた富家は、家主が帰宅するや否や仰向けに寝そべったまま問い掛けた。
「あんたも出ンの?闇試合」
「…勝手に入るなと何度言ったら分かる」
「なあ、出ンの?」
窘めも全く気にせず問い続ける富家に財目は溜め息を吐く。
「なあなあ」
「まさかお前も出るのか」
「あ、つーことは財目出るのか」
その上こちらの問いかけには答えない。財目は先程より深い溜め息を吐く。
「財目、溜め息ばっか吐いてんのな。ハゲるぞ」
お前のせいだお前の。
更に本日三度目の溜め息を吐いて財目は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出した。
「俺は出ないよ」
財目が冷たい水で喉を潤した頃、漸く富家がそう答えた。
「面倒クセーし、そもそもボーダーチームまで巻き込むなっつーの」
富家自身は棒術の才を開花させているが、彼のチームメイトの方はごく一般的なボーダーだ。仮令富家が闇試合で優勝したとしてもそれは富家自身の実力であり、チームには関係の無いものだと富家自身は思っている。
何より、好成績を上げる自信があるだけに勝ち抜いてしまった後のことが心配になってくる。中には納得がいかず再戦を吹っかけてくる輩も居れば闇討ちを狙う輩も居るかもしれない。それが全て富家のみに降りかかってくるのならば返り討ちにしてやるだけの話なのだが、これが他のメンバーだとそうはいかない。チームリーダーとして、そして一個人として仲間を危険に晒すようなことはしたくないのだ。
「…でもまあ、もう少し、考えてみる」
ぽつりと呟くように付け足される言葉。
「……」
財目は無言のまま富家を見下ろした。
出場を拒否した者がどうなるのか、噂ぐらいは聞いたことがあるのだろう。
どちらにせよ、憂いが消え去ることはない。
「よっと」
富家が勢いをつけて起き上がる。
「んじゃ、帰るわ」
へらっといつもの笑いを浮かべて富家は財目の傍らを通り抜けて玄関へと向かう。
ひらひらと手を振って出て行く富家の後ろ姿を、財目はあいつは何しに来たんだと思いながら見送った。
「……」
立て付けの悪くなってきた窓から空を見上げる。
一雨来そうな空模様だった。

 

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