6月19日の花:シロツメクサ=感化、約束
小鳥、涼/QP




「昨日は悪かったな。急用が出来ちまってよ」
改めてトレイシーの墓参りに来た涼を小鳥は前日同様破壊的な抱擁で迎え入れた。
「トレイシーもリョウが来てくれて喜んでるぞ!」
墓前でトレイシーの話に花を咲かせていると、小鳥の母親がひょいと顔を覗かせた。
「小鳥、おにぎり握っといたからリョウちゃんと食べな。おかあちゃんはでかけるからね」
「おう、リョウ、食おうぜ」
縁側で二人並んで握り飯に齧り付き、キュウリの浅漬けを摘まんでは冷たい麦茶を飲み干す。
コンビニモノには無い素朴な味わいがリョウは大好きだった。
「うめえだろ、おかあちゃんの握り飯と浅漬け」
「ああ」
二十個ほどあったはずの握り飯はあっという間に二人の胃袋へと収まってしまった。(その殆どを小鳥が食べた)
それから他愛も無いことを話した。
小鳥の豪快な笑い顔を見ていると自然と自分も笑っている事を涼は自覚していた。
ツネや幸三も大切な仲間だ。
だが、小鳥は別格だ。
小鳥は自分を救ってくれた。
小鳥のためなら何だってする。
「…なあ、小鳥。青道高の上田秀虎って知ってるか?」
小鳥をトップに据えるために今一番邪魔な存在。
「小鳥?」
返ってこない応えに傍らを見ると、何時の間にか小鳥は大の字になって爆睡していた。
「……」
一瞬ぽかんとした後、涼はふと破顔する。
「小鳥ぃ、人がおーマジメな話しようってーときに」
喉の奥でくつくつと笑いながら涼は小鳥の隣に寝そべった。
覇道を目指すと同時に、こんな時間がずっと続けば善いと思う。
そして覇道を制することがこの時間を永久的なものにしていくものだと信じている。
「なあ、小鳥」
高鼾をかく小鳥の寝顔を見下ろしながら涼は呟く。
「何があろうと俺はずっとお前の傍に居るよ」
いつか年取ってジジィになっても、傍に居る。
「それで、お前より後に死ぬんだ。トレイシーみたいに先に死んでお前を悲しませたりなんてしねえよ。絶対に」
穏やかに笑い、小鳥の癖のある前髪をくるんと指先で弄った。
自分と小鳥の歯車が食い違ってきていることを、この時はまだ、知る由も無かった。

 

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