6月22日の花:ワサビ=目覚め シード/幻想水滸伝2幸せのカタチシリーズ |
目を覚ました時、俺は包帯やらガーゼやらで体を覆われていた。 一番酷かったのが、腹の傷。 包帯を換えてもらった時にその傷を見て、驚いた。 左の脇下辺りから右の腰骨までずっぱりやられてて、そりゃ呼吸するだけでも痛むはずだわ、とか、よく生きてたな、とか思った。 その次に酷かったのが、左手。 どうやら俺は崩れ落ちた城の中で見つかったらしい。上座だったお陰か瓦礫も下座に比べれば格段に少なくて、その瓦礫が上手く積み重なってくれたお陰で隙間が出来たってわけ。だからぺしゃんこにならずに済んだらしい。 勿論、全身が無事ってわけじゃなかった。潰されていた部分もあった。 それがこの左手。 俺が意識を取り戻すまでに瘍医が頑張ってくれたらしくて、切断しなければならないなんて事にはならなかった。 そりゃあ千切れかけてた指をくっ付けたりしたんだから完治した俺の左指はでこぼこしてて微妙に反ってたり歪んでたりしてる。勿論曲がらない。前後に動かすことくらいなら出来るけどな。 だから掌で物を持つことは出来ても、指で何かを摘むことは出来ない。 けど、俺はそれを哀しいとは思わなかった。 だってよ、そんな普通なら死んでるって状況で生き延びたんだぜ? 俺って強運の持ち主だなあって思った。 そう言ったら、俺の面倒を見てくれている女の人、ラージアが「それもあるけど」と一枚の紙切れを見せてくれた。 その縦長の紙は、染み込んだ血が乾いて赤銅色に染まってて、ごわごわしていた。 「優しさの雫」の札。 俺を見つけたのも、これが光っていたからなんだと。 俺はラージアに頼んで小さな御守袋を作ってもらい、折り畳んだその札を入れて貰った。 その時はまだ左手は包帯でぐるぐるで、紙を折ることすら出来なかったんだよな。 眼が覚めてから何日目だったっけ、起き上がる事が出来るようになった。 その時になって漸く俺はラージアと話す事が出来た。それまでは喋ると腹筋使うから喋れなかったんだ。 そんで、改めて礼を述べて。 そしたら良いのよ、って彼女が笑って。 その頃から彼女の娘、シェネが俺に寄ってくるようになった。 俺は、眼が覚める前までの記憶は見事なほど思い出せなかった。なのに、シェネを見ていると不意に自分の妹のような気がして来て、俺には妹がいたのかな、とか思った。 それから数ヶ月後、傷も完治した俺はそのままラージアの家で世話になることになった。 村の名は、サジェと言った。 小さく、ひっそりとした村だったが、その分、村全体が家族のような所だった。 記憶をキレイサッパリ忘れている俺を、彼等は快く受け入れてくれた。 内心では不安だった俺には、彼らの心遣いは物凄く有り難かった。 そうして俺は、ラージアの亡き弟の名を貰ってガドルと名乗るようになった。 それから暫くしてラージアが同盟軍の奴等に殺されて、ブチギレた俺は後先考えずルノセア城へと乗り込んでって、呆気なく捕まっちまったんだけどよ。 そこで、俺は自分の素性を知った。 ハイランド軍の将軍様だとさ。へー。 いや、だって実感無いし。 城で発見されたとは聞いていたから多分王国兵辺りなんだろうなーとは思ってたから、剣が使えたり体術が体に染み込んでても別に不思議に思わなかったし。 取り敢えず、軟禁されてその間にあれこれと資料見せられたり、元上司や同僚だっつーヤツらと話したりしたけどさっぱりわかんねえ。 そうこうしてる内に犯人が見つかって、それが実は同盟じゃなくてハイランドの人間だって知って。 その時はそいつらの態度にかーっとしてぶちぎれたままに怒鳴っちまったけど、あの瞬間、何か思い出した様な気もした。 結局思い出せず終いだったけど。 でも、何かを感じたことは確かだったんだ。だから、約束した。 いつか、記憶を取り戻したら会いに行く、と。 そう言って幼き国王と別れて、もう二年が過ぎた。 |