6月23日の花:ムギワラギク=永遠の記憶、献身、思い出 シード/幻想水滸伝2幸せのカタチシリーズ |
それを見つけたのは、偶然だった。 家の大掃除をしていて、ついでに衣類も整理するか、と思って衣類用の箱をひっくり返した時だった。 「これ…」 ガドルは一番下に仕舞ってあったのだろうそれを手に取り、目の前に広げてみる。 白地に赤のラインが栄える軍服。 「…俺の、だよな…」 その軍服の腹部には、己の腹と同じように大きな傷痕があった。その傷は生前ラージアが繕ったのだろう。一見なら皺程度にしか見えないだろうと思えるほど細かく丁寧に繕われている。 そしてよく見ると薄っすらと染みのような跡が見えるのが分かった。 何の、と思う前にそれが己の血だとガドルは察した。 「……」 じっと手にしたそれを見詰めていると、お兄ちゃん、と自分を呼ぶ声にガドルは顔を上げる。 『お兄ちゃん、机動かすの手伝って。重たくて動かないの』 隣りの部屋から聞えてくるシェネの声にガドルは手にしたそれをその場に置き、妹の元へと向かった。 「シェネ、話がある」 夕食が終り、その後片付けも終った頃、ガドルは妹を改めて呼んだ。 「なぁに?」 ガドルの向かいの椅子に腰掛けたシェネはきょとんとした視線を兄へと向ける。 「…昨日、俺がここへ来た時に着ていた服を見つけた。それで…それが、きっかけになったんだと思う。俺の元上司や同僚と会っても何も思い出せなかった事が、あの軍服を見てから、断片的…っつってもわかんねえか…こう、少しずつ思い出していったんだ」 「…うん」 思いの外シェネは落ち着いていた。じっと兄を見詰め、言葉に耳を傾けている。 「俺は…俺は、ルノセア城へ行きたい。旅行とかじゃなく、あいつらが許してくれるなら、俺はあの城で生きたい。…ここはお前の生まれた村だし、ラージアとの思い出のある家だから出ていくのは嫌だとは思うけど…出来れば、お前にも付いて来て欲しい」 そこまでじっとガドルの言葉に耳を傾けていた少女は、がたりと立ち上ると部屋を走り出ていってしまった。 「シェネ…」 やはり駄目だったかと溜息を落す。 だが、もう決めてしまったのだ。何日掛けてでも説得するつもりだ。 この村にも、ラージアにも、そして自分を見付けてくれたシェネにも感謝している。 出来る事なら、ずっとこの村で生きていきたい。 けれど、己が何者であるかを思い出したのなら、それは出来ない。 あの方と、アイツの居る場所が、己の… 「シェネ?」 よたよたと何かを抱えて戻って来たシェネに彼は腰を浮かせ、そしてその抱えられた物に目を見開いた。 それは、軍服と同じく白地に赤ラインの入ったホルダーを付けた鞘に収まった、一振りの剣。 「俺の、剣…」 シェネは俯いたまま、抱えていた剣をすっと兄へと差し出した。ガドルがそれを受け取ると、お母さんがね、と少女が俯いたまま口を開いた。 「いつか、お兄ちゃんが思い出したら、引き止めちゃ、ダメよって」 「……」 まだ十に満たない少女は顔を上げ、でもね、と言葉を繋ぐ。 「引き止めるんじゃなくて、一緒に行くのなら、お母さんも許してくれると思うの」 「シェネ…」 「ホントは、鎧とか、全部、ずっとお兄ちゃん部屋に仕舞ってあったの…でも、お母さんが、思い出したらそれまでのことは…シェネたちのことは、忘れちゃうかもしれないけど、仕方ないのよって…だから、本当はお兄ちゃんの部屋にあったの、シェネがシェネの部屋に隠したの…隠してて、ごめんなさい」 薄っすらと涙を滲ませてそう告げる少女を、彼は柔らかく抱きしめる。 気にしなくても良い、その思いを込め。 そして、ありがとう、と。 翌朝、いつもの様に畑へと出向き、二人で最後の世話をした。 そして朝食の後、妹が部屋へ荷物を取りに戻っている内に兄は自室で着替えを済ませた。 「……」 先の戦争が終り、三年近くが過ぎた。 その間、ずっと纏うことの無かった鎧、軍服。 そして、帯びることの無かった愛剣。 それを全て纏うと、彼は壁に掛けられた鏡と向かい合う。 「よお、久し振りだな…シード」 それが、彼が「ガドル」から「シード」へと戻った瞬間だった。 |