6月26日の花:ガマズミ=私を見て
鷲尾、攻爵/武装錬金




「創造主」
名前を呼ばれなくなってどれくらい経っただろう。
「創造主?お加減でも…」
「鷲尾」
「はい」
「名前で呼んでみてくれない?」
攻爵の言葉に鷲尾は微かに目を見開いた。
「しかし…創造主の名を口にするなど恐れ多いこと…」
「命・令」
戸惑う鷲尾にぴしゃりと告げる。
鷲尾は視線を彷徨わせた後、意を決したように口を開いた。
「…攻爵様」
攻爵。僕の名前。
「もう一度」
「攻爵様」
「様はつけるな」
「しかし…」
「命令」
「…では…攻爵」
「……」
難しい顔をして黙り込んでしまった創造主の姿に鷲尾は縋るような表情で攻爵を見つめている。
何かが違う。
何かが物足りない。
攻爵は子供のように唇を尖らせて不機嫌を露にする。
「創造主、我が創造主…私は何か間違えたのでしょうか…」
足元に跪く男の姿に漸く攻爵は表情を明るいものへと戻して右手を差し出した。
「鷲尾、そんなわけないだろう?お前は一番良い子なんだから」
攻爵の言葉に鷲尾は感極まったように差し出された手を恭しく取り、その甲に己の額を押し当てた。
「我が創造主…」
ホムンクルスの急所である額の章印を相手の利手に晒すことによる忠誠の所作を、攻爵は何処か覚めた目で見下ろしていた。
創造主。
欲しかったのはこんなのじゃない。
攻爵様。
従わせて呼ばせるのではなく。
鷲尾。
お前の意志で、聞きたかったな。

 

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