6月28日の花:ジギタリス=胸の思い
藍染、雛森/BLEACH




最後に己の名を署名し、全てを書き終えた藍染は静かに筆を置いた。
墨が乾くのを待ち、丁寧に畳んで紐を掛ける。
「……」
藍染はそれをじっと見下ろし、やがて瞑目する。
この手紙が紐解かれるような事にならなければ善いと思う。
徒労で終われば善いと願う。
けれど恐らく。
「……」
閉じていた目を開け、藍染は体ごと背後を振り返った。
藍染は己の表情が自然と綻ぶのを感じた。
雛森が布団の上で膝を抱えたまま寝入っていた。
藍染は衣擦れ一つ立てずに雛森の傍らへ移動し、起こさない様にそうっと彼女の体を横たえる。
「…〜…」
雛森の唇が微かに動き、何かを呟いた。
藍染はくすりと笑い、肩まで布団を引き上げて雛森の髪をそっと撫でた。

すまない。

藍染は音にならぬ声で囁く。
もし、僕の考えが少しでも真実と同じくするものであるのならば。
雛森くん。
僕はきっと、君を泣かせてしまうだろう。
それでも僕は、立ち止まることはしない。
仮令、立ち止まろうとしても、既に動き始めてしまった歯車はそれを許さない。
雛森くん。僕は行くよ。
藍染は立ち上がり、静かに部屋を出ていく。
眠る雛森の気配を背に感じながら、後ろ手に障子を閉ざした。

 

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