7月27日の花:ホウセンカ=私にふれないで
斬月、一護/BLEACHパラレル




お前が私の存在を認めてどれほどの時が流れた頃だったか。
あの忌まわしい事件が起きた。
だが私とお前の在り方は変わらない。
そうしなければならない存在なのだから。
けれどお前は私を拒絶した。
お前は悲痛な声を上げ、それでも交わりたくないと拒絶した。
私の名がお前に届いてから初めての事だった。
内なる世界は常に暗雲が立ち込め、雨が降り続けた。
時には平行を崩し、全てを呑み込む嵐となった。
哀しみの嵐だ。
うねる哀しみの渦。
降り注ぐ涙。
吹き荒ぶ後悔。
私はそれを癒したかった。
だからお前が私を拒絶したあの日。
私は初めて、お前を慰める為に触れた。
まるで、人間のように。


一護はぼんやりと零番隊隊長席に座っていた。
そこは、ほんの少し前迄は別の死神が座っていた。
けれどもう、その死神も、そしてたった二人の仲間もいない。
独りきりだ。
何時の間にか傍らに黒尽くめの男が立っていた。
「…一護」
男の声に一護はのろのろと視線を上げ、男を視界に入れた。
「…斬月のオッサン」
男は一護の斬魄刀を具象化させた存在だ。
一護の武器は正真正銘斬魄刀であるにも関わらず、何故零番隊所属なのか。
それは一護と斬月の在り方によるものだった。
「今は、気分じゃねえんだ…」
再び俯いてしまった一護に斬月は歩み寄る。
「しかし私と交わらねばお前の力は暴走する」
一護の霊力は規格外れの強さだった。限界を知らぬその力。
だが、強すぎる力は時として器を蝕む。
霊力だけならば一護だけで制御可能だったが、見えない所で少しずつ魂魄を蝕んでいくそれを止める事は出来ない。それを防ぐのは斬月の領分だった。
一護と斬月は他のどの死神と斬魄刀よりも繋がりが深い。
その為、定期的に一護が斬月と交わる事により力を少しずつ魂の奥底へと「仕舞い直し」、魂魄への負担を無くしているのだ。
「分かってる…けど…」
「一護」
「厭だっ」
伸ばされた手を一護は反射的に振り払った。
斬月が微かに目を見張る。だが、それ以上に驚いたような顔をしたのは一護自身だった。
「あ…悪ィ…」一護は気まずげに視線を伏せた。
「それでも、今は…」
斬月には一護に一瞬であっても強い拒絶が浮かんだのがよく分かった。
そしてそれを後悔し、彼の内なる世界の嵐は一層激しさを増した事も。
斬月にはそれが痛ましくてならない。
「……」
斬月の指先が一護の頬に触れた。強張る一護の体。
けれどその指先は融合を始める事はなく、そっと一護の頬を撫で下ろした。
「ざん…ぅわっ!」
腕を引かれ、軽々と立たせられた一護が戸惑いの色で斬月を見上げていると、不意に抱き寄せられた。
それは矢張り融合の為ではなく、ただ慰撫するように髪を撫でられる。
交わる時とは違った、柔らかな気持ちよさに一護は目を閉じた。

 

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