8月2日の花:キキョウ=変わらぬ愛
一角、ネム/BLEACH




廊下ですれ違った時、思わずその腕を取っていた。
余りにも細い、華奢な腕。
「…斑目様?」
腕を取られた少女、涅ネムは微かに目を見開いて一角を見上げていた。
「お前それ、どうしたよ」
「これは…」
ネムの表情が微かに陰る。
彼女の顔の右半分は真っ白な包帯に包まれていた。
「また、か?」
「…マユリ様の期待に添えない私が悪いのです」
一つだけの視線が伏せられる。
「右目も、言い付けを守れば返して下さいます」
「返す返さないの問題じゃねえだろ。お前、移籍願い出したら如何だ。席数は落ちるかもしれねえけど、このまま涅隊長の玩具になってるよりは…」
「斑目様」漆黒の瞳が一角を見る。
「これは強制ではありません。私の意志です」
「ネム、」
「私が、マユリ様のお側に居たいのです」
ネムは表情にも声にも殆ど感情の起伏を現さない。今とていつもと変わらぬ覇気の無い声だったが、それでも彼女が確固たる思いの元で告げたのだと一角には分かった。
「…失礼します」
小さく会釈をしてネムは去っていく。
「…あの人がそれに応えてくれるわけねえだろ…」
十字路を左に曲がり、その姿を消したネム。
「お前だってわかってんだろ」
私が、マユリ様のお側に居たいのです――
「…チッ」
蘇るネムの声に、一角は舌打ちをして歩き出した。

 

戻る