8月12日の花:オクラ=恋の病
十文字/アイシールド21




「なあ、男同士ってどうやるんだ?」
「ハ?何をだよ」
「セックス」
ぶっ!!
黒木が飲んでいたコーヒーを戸叶の顔面めがけて噴き出した。
「はぁあぁ?!何言ってんだよお前!」
「くーろーき!!」
「文句は十文字に言いやがれ!つーか、どうした突然!」
「拾い食いでもしたか!」
「してねえよバカ。とにかく知ってんのか知らねえのかどっちだよ」
戸叶がシャツで顔を拭いながら「そりゃあお前、」と辺りをちらりと見回す。
幸か不幸か屋上には彼ら三人以外の姿は無い。
「自分の体で考えてみろよ。突っ込む所なんて一つっきゃねえだろ」
「やっぱ、そうなのか…」
何処か遠い目をして空を見上げる十文字に黒木が「オイオイオイオイ」と突っ込む。
「『そうなのか…』じゃねえよ!まさか男に惚れたとか言うなよ?!」
「いや…」
「だよなー」
「寧ろ付き合ってる」
「だよ…はぁあぁ?!」
「おいおい、頭でも打ったか?」
まあ当然ともいえる反応に十文字は肩を竦めた。
「残念ながら健康そのものだ」
つい最近までは自分だってそう思っただろう。
だが、使い古された言葉で言うのなら、好きになってしまったものは仕方ないというヤツだ。
「寧ろ健康すぎて困ってるくらいだ」
参ったねコリャ、と言わんばかりにため息をつく十文字に、黒木が好奇心混じりの声で恐る恐る聞いてきた。
「誰だよ、俺らの知ってるやつ?」
「んーあー…まあ」
「マジかよ…」
十文字がしどろもどろになりつつはぐらかしていると、控えめな音を立てて屋上と階下を繋ぐ扉が開かれた。
「あの〜」
ひょこっとその小柄姿を覗かせたのはアメフト部主務の小早川セナだった。
「あんだよ」
邪魔された黒木が不機嫌な声でセナを見る。だがセナもセナでヒル魔からの伝言を伝えなければ後が怖い。
「その、今日は部活、体育館でやるから体育館に集合って…」
「はぁあぁ?!ちっ、せっかく休みだと思ったのによー」
今日はサッカー部の練習試合があるため、グラウンドを使用する部活は休みもしくは自主トレとなっていたのだが、どうやらまたヒル魔が校長を脅迫して体育館使用権を奪ってきたらしい。
「それだけです、それじゃあ」
軽く会釈して顔を上げた瞬間、セナと十文字の視線がぶつかった。
偶然ではなく、お互いを見ようとした結果だ。
「……」
十文字が小さく頷くと、セナは微かに笑って屋上から出て行った。
「ハ、ハーン。そういうことか」
戸叶の言葉に十文字はびくりと硬直する。バレた。
「何だよトガ、何がそういう…」
ぴたりと黒木の言葉が止まり、ゆっくりとその視線が戸叶から十文字へと移る。
「……はぁあぁ?!マジで?!アイツかよ!!」
黒木の叫びを聞き流しながら十文字は先ほどのセナを思い出していた。
やっぱ可愛いよなあ…。
セナがいるのなら、もう少しくらいアメフト部に付き合ってやってもいい。
もしこの時、黒木と戸叶に十文字の思考を読む事ができたら彼らは友達を止めていたかもしれない。
この時、十文字は真面目に「恋ってヤツァ偉大だなァ…」と思っていた。

 

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