1月1日の花:キク=愛しています
庵/97




「アンタは明らかにそのタイプじゃないから」
二階堂の言葉が耳に纏わり付いて離れない。
だから安心しろ、と彼は言う。
無理な話だ。
今はこの腕の中にいても、きっとすぐに駆けて行くだろう。
じっとしている事が苦手な奴だから。
「アンタはちゃんとアンタ自身を愛されてるのよ」
本当にそうだろうか。
もし八神も草薙も関係なく出会っていたら、彼はここにいただろうか。
この体の中を廻る血の囁き。
彼を憎めと。
彼を守れと。
せめぎあうう二つの本能。
彼の中にもそれはあるのではないだろうか。
大蛇を思慕しろと。
八尺瓊を求めろと。
それが京の視線をこちらに向けさせているのではないのだろうか。
京の想いは今でも違う所にあって、けれど遺伝子に組み込まれた本能に従っているだけなのではないだろうか。
だが、それでも。
「庵!」
腕の中に飛び込んでくるその体。
ふわりと包み込む太陽の気配。
「全く、どこ行ってたんだよ」
この眼が自分を見るのなら、何だって構わない。
駆け出すというのなら追いかけるまで。
自分の傍らに京を繋ぎ止めるのではなく、自分が京の傍らを歩く。
そんな存在で、在りたい。

 

 

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