1月4日の花:チューリップ(白)=長く待ちました
K’、マキシマ京/団地妻




夕食の後、彼らは三人揃ってテレビを観ていた。
座椅子型のクッションに京が座り、その右隣に夫のマキシマ、左隣に義弟のK’。
何時の間にか暗黙の了解となった定位置だ。
この時期の番組はどれも特番ばかりで、今は芸人たちが笑いを交えながらトークを交わしている。
「……」
ふと京の視線がテレビから義弟へと向かった。
「?」
「ん…何でもない」
再び視線はテレビへ。アハハハハ、と明るい笑いが画面から響く。
「……」
その笑い声も、トークも、映像さえ京の中を素通りしていた。
時計の針は一月三日から一月四日へと移り変わっている。
年末は大掃除やら実家で母におせちを教わったりしていた。
年が明けてからは三人で初詣に行ったりごろごろしたり。
因みに彼らのもう一人の家族である女性はルームメイトと共に過ごすことを優先とし、こちらに顔を見せるのはもう数日後のことだ。
それについては別に問題はない。
問題は、京自身の予定にあった。
主婦(?)であると同時に草薙家の当主でもある為、四日と五日は実家に帰らなければならない。
恐らく帰ってこられるのは早くて五日の夜遅くだろう。下手をすると六日になっても帰らせてもらえないかもしれない。
京としてはそんな事は忘れた振りをしてしまいたい所なのだが、自分が草薙家の当主でなければあの時、マキシマと出会ったその時に彼を助けることも、そして今こうしている事も無かっただろう。
それを思うと余り実家を蔑ろにする事は出来ない。
「………」
京は頭の中で指折り数えてみた。
……今日で一週間。
一週間もマキシマとしてない。
何をと言われれば、所謂「夫婦の営み」を、だ。
マキシマの方はどちらかといえば淡白な方で、大抵京から誘うのだが。
「………」
自分の左隣の存在がそれをストップさせている。
そもそもこの部屋は自分とマキシマの部屋なのだから追い出しても良いのだが、彼のマンションには彼を待つ者はいない。寂しいじゃないか、と京は思う。
第一、ただでさえ兄を取られない様にとここに入り浸っているお兄ちゃん子な彼のことだ。そんな事をしたら完全に嫌われてしまうだろう。
(うーん……)
京は内心で唸り声を上げる。
因みに京はK’に対して大きな勘違いをしているのだが、それを正してくれる者はいなかった。
うーん、と京は更に唸る。
今夜を逃してしまえば更に最低二日は御預けだ。
しかも御預けだけならまだしも、会う事すら無理な状況の中、あの疲れる神事を執り行わなくてはならないのだ。
無理。
速攻で京の脳は結論を弾き出した。
だがしかし、可愛いこの義弟にこれ以上嫌われてしまうのは嫌だ。
「……」
不意に左隣の存在が立ち上り、京ははっと視線を上げた。
「K’?」
「…明日、用事あるから、帰る」
「へ?」
K’はさっさと玄関へと向かい、出ていってしまう。
「え、ちょっ、お前明日も休みじゃ…」
京がぽかんとしたまま彼の出ていった方を見ていると、マキシマがくつくつと笑い出した。
「京、お前、顔に出てるぞ」
「へ?!」
慌ててマキシマに向き直ると、ちゅっと軽いキスを落とされた。
「したくてそわそわしてたのがバレバレだ」
「!!」
かあっと京の頬が朱に染まる。
バレてた。しかもK’に気を使われてしまった。
だが、彼には悪いのだが、悪いと思うのだが。
「……だって、一週間もしてねえんだぜ?」
するりとマキシマの太い首に腕を回し、顔を寄せる。
二度目の触れるだけのキス。
「こんなのばっかでさ」
「足りなかったのか?」
「当たり前だろ?」
意地悪く笑うマキシマの態度に京が拗ねて唇を尖らせると、舌先でそこを擽られて今度は深く口付けられた。
「んっ…んー…」
侵入して来た彼の舌に応えながら京は一層ぺったりと密着する。
「…はぁ……なぁ…隣り、行こうぜ…」
ここじゃ背中が痛い、とマキシマの腕を引いて立ち上る。
マキシマが立ち上がり様にテレビとリビングの電気を消し、二人は寝室へと雪崩れ込んだ。
「一週間分と明日からの分、な」
京のその楽しそうな声が、その夜最後の言葉らしい言葉だった。

 

 

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