1月5日の花:デージー=無意識 マキシマ、K’、京/団地妻 |
両親が死んでからは三人で過ごした正月も、去年は姉と二人で過ごした。 兄は、相変わらず行方不明だった。 姉は五日までは帰って来ていたが、その姉が帰ってしまうと再び部屋には重苦しいほどの静寂が戻ってきた。一人になった自分は姉が作り置きをしてくれた料理を食べ、それが無くなればコンビニ弁当の毎日を再開する。 正月だろうがなんだろうが、そんなの関係なかった。 けれど、今年は行方不明だった兄が戻って来て、目の前で笑っている。 そして。 「K’、そこの皿取って。おう、それ。さんきゅ」 その兄の隣りで笑う、恋しい人。 新しい、家族。 夕食の後、K’は兄夫婦と並んでテレビを観ていた。 テレビの正面には座椅子型のクッションに座った京、その右隣にマキシマ、左隣に自分。 何時の間にかそこがそれぞれの定位置となっていた。 この時期の番組はどれも特番ばかりで、今は芸人たちが笑いを交えながらトークを交わしている。 然程この手の番組に興味の無いK’は、けれど京の隣りに居たいが為にその画面をじっと見詰めていた。 だから、すぐに気付いた。 「……」 ふと京の視線がテレビから自分へと向けられた事に。 「?」 けれど掛からない声を訝しんで京を見ると、彼は何でも無いと呟いて再び視線をテレビへと戻してしまう。 気も漫ろな感でテレビを眺めている京。 先程彼と視線が合った瞬間、K’は理解してしまった。 そうか、彼は。 「……」 徐に立ち上ると二人の視線がこちらに向けられる。 「K’?」 「…明日、用事あるから、帰る」 きょとんとして見上げてくる京の顔を見る事も出来ず、K’は足早に玄関へと向かった。 「へ?」 彼がぽかんとしている内に靴を突っ掛けてその暖かい部屋を出る。 冬独特の乾いた冷気が頬を撫で、体を包み込もうとする。 K’はそれを拒むように背を丸め、ポケットに手を突っ込んで階段へと向かった。 「……」 こちらを見た京の視線。 きっと、無意識なのだろう。 いつもは澄んでいる黒い瞳。 それが僅かに霞んでいた。 情欲という名の翳り。 けれどそれに浅ましさはなく、まるで頭を撫でてもらいたがる子供の様なそれ。 彼が自分に何を望んでいるのか、嫌というほど理解できた。 だから、部屋を出た。 抗う気など起きなかった。 彼がマキシマを望むのならば、そうすればいい。 自分のこの腕が彼を抱く事など有り得ないのだから、せめて、彼が望む全てを叶えたい。 「……ッ……」 この苛立ちも痛みも、全て彼の為ならば。 手放したいと、思いたくない。 |