1月8日の花:アロエ=悲嘆 庵、京/96 |
京の嘆きが、聞こえる。 風が止み、薄暗く曇っていた空が鮮やかな青を覗かせる。 どこまでもひたすらに青空が広がっている。 「死んだのか?」 バイスの声に恐らく、とマチュアが応じる。 「そういう人よ、彼は…」 壊れた舞台から、役者が一人、去った。 そして遺されたのは。 「茫然自失、という感じだな」 その背に日輪を負う青年は、ぼうっと青空を見上げている。 「ク…クククッ…」 泥沼から這い上がるような低い笑い声に二人の視線が庵へと向かう。 庵はその身を屈め、くつくつと笑い続ける。 可笑しくて堪らない。 何が? ゲーニッツが京に敗れた事が? それとも奴の目論見が達成された事? 呆然と青空を見上げる京の姿? それとも、 「ククッ…愚かな…」 囚われている自分? 何に? ―殺セ― 声。 ―やくそくだよ― 記憶。 ―憎イ― 湧き上がるモノ。 ―御爺様にも父様にも母さんにもそーじ兄ちゃんにもナイショにするから…― 薄れてゆくモノ。 「ぐっ…」 縋り付いていた記憶は風化してぼろぼろと崩れていくばかりで。 「八神?」 目の前が黒く、赤く染まっていく。 胃や肺の奥底から何かがせり上がってくる。 ―やくそくだよ、いおりとユキと京の三人で…― 嬉しそうな声が掠れながら聞こえてくる。 今はもう、その幼い姿も黒と赤に塗りつぶされてしまって思い出せない。 「まさか!マチュア、八神から離れ…!」 矛盾と葛藤の中、ただ一つだけ守りたかったもの。 ―誓ヲ違エタ愚カナル愛シ子ヨ― 「ぉおおおおおお!!!」 嘆きが聞こえる。 それは、誰の嘆きか。 |