1月9日の花:クモマソウ=冷やか、冷静
K’、マキシマ、京/??




「テメエはもういらねぇ」
彼の傍らに立つのが嫌だった。
右腕が、カラダが彼に反応して疼くから。
この体に彼が染み込んでいるのだと思い知らされるから。
その体を抱くほど、彼のナカへ還りたいと細胞の一つ一つが叫ぶから。
それに辟易して、突き放した。
「良いのか?俺が居なくても」
ハッ!なんだよそれは。
まさかテメエが居なきゃ何も出来ねえとでも思ってんのか?
残念だったな。俺はそこまでバカじゃねえ。
「そっか」
彼の気性からして、激昂すると思った。怒鳴り散らすだろうと。
けれど、彼はあっさりとそれを受け入れた。
「じゃあな」
彼はひらりと手を振って踵を返した。
「お前の負けだな、K’」
そう言い残して。
精々負け惜しみかその程度だと思っていた。
この時が、訪れるまでは。


マキシマは安宿の一室に帰って来るなりK’の顔をじっと見詰めた。
「……何だよ」
初めは無視していたK’もいい加減鬱陶しく思ったのか、訝しげな視線を彼に向ける。
「近くに娼館があるが、行ってくるか?」
「はあ?」
険の篭もった声を返すと、いやいや、とマキシマは唇の端を歪めて笑った。
「自分で気付いて無いのか?欲求不満で仕様が無いってツラしてるぜ」
「……」
すると彼にも自覚があるらしく、チッと舌打ちをして視線を逸らしてしまう。
「欲求不満をバカにしちゃいかんぞ。常にイライラして怒り易くなる。まあお前の場合は元々そうだけどな。いやとにかく。最悪の場合、咄嗟の判断が遅れる事だって有り得る」
だからとっとと女でも抱いて解消してこい。
マキシマの言葉をK’は鼻で笑い飛ばした。
「お気遣い痛み入るが、そんな所、行かねえよ」
「K’、」
「女抱いて収まるようなモンじゃねえんだよ」
K’はマキシマの言葉を遮ってそう続け、曲げた人差し指の関節にキリ、と歯を立てる。
「畜生…」
薄汚れた壁を睨み付けながら忌々しげに呟く。
「…草薙京か」
「………」
K’はゆらりと立ち上ると彼の側を摺り抜け、部屋を出ていってしまった。
「…全く」
マキシマはやれやれ、と肩を竦めてその背中を見送った。

 

 

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