1月15日の花:キンセンカ=変わらぬ愛
紫舟、京/??




一人遺されるのは嫌だ。
寂しい。
でも、自分で自分を殺すのも嫌だ。
怖い。
庵を殺すのも嫌だ。
恐ろしい。
そんな勇気、俺には無い。
終わりが見えなければ良かったのに。
最期まで気付く事無く、唐突にそれがやって来れば良かったのに。
そうだと気付く間もなく、その穴に落ちてしまえたら良かったのに。
「…ただいま」
門を潜った所でそう呟く。
数日ぶりの実家は、どこか、違っていた。
いや、そうじゃない。
この家は、何も変わってない。
変わったのは、自分。
不法侵入してるような気が微かにしてくる。
そのまま庭を横切ってそこへと向かう。
高く伸びた竹に囲まれ、静けさを宿す蔵。
まともに足を踏み入れるのは、初めてかもしれない。
「…これだ」
小さな隠し戸の奥、それはあった。
埃で真っ白になった木箱を取り出して紐解く。
蓋を開けると、僅かに黴臭さを感じて顔を顰めた。


「何をする気じゃ」
蔵を出るなり掛かった声に京はびくりとしてその足を止めた。
「…親父」
そこに立っていたのは、久方ぶりに顔を合わせる父親。
「漸く帰って来たと思えば外法帳なぞ読み耽りおって」
全く、と溜息を吐く紫舟から京は視線を伏せる。
「…なあ、親父…昔、言ったよな。草薙と八神の関係は、血に刻まれた呪いだって」
これも、そうなのか?
そう呟く息子の姿を紫舟は訝しそうに目を眇めて見詰める。
「ごめん、親父。俺、やっぱり良い当主になれなかった。跡取りも遺してやれない。俺、あいつしか駄目なんだ」
「京?」
「あと、俺の代わりにお袋に謝っておいてくれよ」
素早く呪を唱え、腕を振ると足元から炎が舞い上がって京と紫舟を隔てた。
「京!」
炎が散る頃にはそこに京の姿はなく、僅かに焦げた地面だけがこの場に京がいたという事を示していた。

 

 

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