1月18日の花:スイバ=忍耐、親愛の情
庵、京/嵐の夜に




「…ん…」
微かにその瞼が震え、その奥の漆黒の瞳が覗いた。
「?!」
京の体がびくりと震えて硬直する。
目の前に八神の顔があったからだ。
(そっか、俺、寝ちゃったんだ)
そして目の前の山羊もどうやら自分に釣られたらしくその切れ長の眼を閉じている。
こんな見晴らしの良い草原で二人して昼寝して、誰かに見られていないだろうか。
狼と山羊が、こんな風に昼寝なんて。
しかも自分は草薙の当主だ。
目付け役の耳に入ろうものなら延々と小言を喰らうだろう。
それでも。
「……」
京はじっと目の前の顔を見詰める。
(『八神』って美味いんだよなー。でも、こいつの事嫌いじゃないし…もっと話したりしたいし…つか、手、デカイし。絶対草で育った手じゃねえってコレ)
もっとその手を見ようと京は彼ににじり寄る。
その五本の指先が自分とは違い、角張っているのが違和感を覚える。
この手には草や果実を採る蹄より、自分の様に曲線を描く指先と鋭い爪の方が似合いそうだと思った。
撫でてもらったら気持ち良さそう。
けれどそんな事を頼めば確実に鼻で笑われるのがオチだ。
すると、突然目の前の手が持ち上がって京の頭に乗せられた。
「へ?!」
わしゃわしゃと髪を掻き混ぜられ、京が目を丸くして視線を転ずるといつから起きていたのか八神がこちらを見ている。
「な、何だよ…」
「撫でて欲しそうに見ていたのでな」
途端、京はその頬に朱を上らせた。
「べべべ別にそんなんじゃねえっ!!!」
京の喚きを聞き流していた八神がふと視線を上げた。
「雲が出て来たな」
「へ?あ…ホントだ。雨、降りそうだな」
二人は起き上がり、体に張り付いた草を叩きながら立ち上った。
「夕立か?」
「…雷雲だ」
指差したその先には確かに雷曇が澱んでいる。
「げっ」
またかよ、と京が舌打ちするとまるでそれを聞き咎めたように雷が鳴った。
そして同時に大粒の雨が降り始める。
「近くに洞窟がある。行くぞ」
「え、あ、ああ」
その突然の雨の中、二人は並んで丘を駆け降りていった。

 

 

戻る