1月23日:シュスラン=平安
庵、社、京/嵐の夜に




庵がマキシマとすれ違った頃。
「なんかわかんないスけどスミマセンー!!あだだだだ!」
相変わらず京は真吾をシメていた。
「イタタあっ!そうだ!京さん!良い話があるんですよ!」
真吾の叫びにも近いその言葉に京の手が止まる。
「良い話?」
「そ、そうなんです」
漸く解放された真吾はよれよれになりながらもそれを語った。
「さっき、すっごく体格の良い八神の山羊を見付けたんですよ!社さんと一緒に捕まえようって話してたんですけど、この霧でしょう?見失ってしまって」
アヒルはその帰りに見つけたんですよー。と笑う真吾。
マズイ、と京は内心で舌打ちする。
今度こそ恐らく庵の事だ。
「…社も居るのか」
社は昔、必死で抵抗する八神の者に片耳を食い千切られている。その恨みから八神と見れば腹が減っていなくとも食い殺してしまう狂暴さを持っている。
「はい!なので今、手分けして捜している所だったんですけど、京さんにも会えて良かったッス!あ、見つけたら勿論京さんに知らせますね!」
言うだけ言って去っていく真吾の後姿を眺めながら、京は不味い事になった、と表情を曇らせる。
この辺りには他の動物たちも余り近付かない事から、自分たち草薙の者も余り近付かないのだが、寄りによって今日という日に限って彼らがこの丘に来ていたとは。
「アイツらより先に庵を見つけねえと…!」
自分は彼らの主だ。自分が手を出すなと言えば引くだろう。
けれど、真吾はともかく社はそれで納得する筈が無い。
だからと全てを打ち明けるわけにも行かない。
「ちくしょう…」
丘を駆け降り、一本道へと出る。
「!」
丘の中腹辺りで辺りをキョロキョロと見渡している銀狼がいた。
そして、その近くの岩陰にはその身を潜める庵の姿。
しかしながら狼を恐れて身を隠しているというよりは、近付いた所を一気に殺ってしまおう、と言わんばかりの雰囲気だ。
(めっちゃ戦闘態勢じゃんー!!!)
京は銀の狼へと向かって一気に丘を駆け下り、
「社ぉー!」
「お、京じゃねえか、どうぐはっ!」
勢いに任せて社の胸に飛び蹴りを食らわせてみた。
「勢い余ったんだ、悪ィ」
「『悪ィ』じゃねえー!一瞬息止まったぞ!」
「だから悪いっつってんじゃん。それより、八神見つけたんだって?」
「お、真吾から聞いたのか。そうなんだよ。さっき崖から見渡した時はこの辺りに居たんだけどよ…」
すると京は社の背後に廻り、その広い背中をぐいぐいと丘の上へと向かって押した。
「あっちに居たから捕まえに行こうぜ」
「ん?ああ。それにしても食い応え有りそうな奴だったぜ。八神の肉はマジで美味いからな。こう柔らかい腹に食らいついた時なんてもうたまんねえよな」
「あーそうそう、肉を食い千切る時の感触なんてもう最高って何言わすんじゃアホー!!」
さっさと行け!と背中を蹴飛ばして京は社を追いやると漸く息を吐いた。
さっきの会話を庵が聞いていません様に。

 

 

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