1月24日の花:チューリップ=愛の宣告
庵、京/嵐の夜に




「…ここまで来れば大丈夫だ」
社を追いやった京は庵の手を引いて洞窟の中へと辿り着いた。
ツイてない、と京が呟きながら掴んでいた手を放すと、庵がくつりと笑った。
「食わんのか?」
「何を」
庵は唇の端を持ち上げるだけで答えない。
だがすぐにピンと来た京は「食わない!」とそっぽを向いた。
「先程言っていただろう?肉を食い千切る時の…」
「わーー!!わー!わーー!!」
庵の言葉を遮った京の喚き声が洞窟内に反響する。
「食わねえっつったら食わねえんだよ!」
ムキになる京に、庵はますます意地の悪い笑みを深める。
「冗談だ。それより余り大声を出すと外に聞こえるぞ」
その言葉に京はむっとしたまま口を閉ざす。
そしてぽつりと呟いた。
「…今は、八神の肉じゃなくて…八神が、好きなんだよ…」
すると庵は先程とは違い、柔らかな笑みを浮かべて背を向けている京を抱き寄せた。
「出来れば、『八神』ではなく、俺だけにして欲しいのだがな」
「う…そりゃ、一番……」
ぼそぼそぼそ…
消え入りそうな声だったが、それでもすぐ傍に居た庵の耳には届き、庵は京の首筋に口付ける。
「うひゃっ!」
京の体がびくりと揺れ、毛が逆立つ。
「ちょ、ちょちょちょ庵さん?!本日はお月様を見るというご予定だった筈ですが?!」
指先の冷えた蹄が腹に当たり、京は咄嗟に逃げ出そうとするが、その体は背後からがっちり捕まってしまっている。
「この霧ではどうせ見えん」
「でも、ちょっ、庵っ…その、またこの前みたいなこと、する…わけ?」
この前、というのは夕立のあった日のことだ。
すると庵はさらりと。
「あんな前戯の様なものでは済まさん」
「イヤー!助けてママン!コワイお兄ちゃんがイジメルヨー!」
「随分余裕な事だ。手加減はしなくとも大丈夫そうだな」
「うわわわわマジマジマジでストップ!」
「嫌か」
「そ、そうじゃなくて、その、舐められた時、頭ん中ぐちゃぐちゃになってわけわかんなくなっちゃって、その、見っとも無いし…」
暗がりで良く見えなかったが、恐らく京は耳まで真っ赤だろう。
「ああ、そういう事か」
すると庵はひょいと京の体を反転させ、仰向けに押し倒すと当たり前の様にその体に覆い被さる。
「案ずるな」
「っ!」
耳元で響く低音に京の背筋を微電流が走った。
「俺はそれが見たい」

 

 

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