1月25日の花:ルピナス=多くの仲間
庵、京/嵐の夜に




京は草原を一望できる崖の上からそれを待っていた。
「!」
草原に走る、一本の筋。
背の高い草々をしっかり踏みしめたようなその筋。
それを見た京の眼が嬉しそうに細められる。
そして草薙の庭である野原に降り立つと、同じ様に草原に一本筋を描き始めた。
八神の草原と草薙の草原に一本ずつ現れたそれ。
「明日だな…」
明日、いつもの場所で。


「は?狩り?」
だが翌日、京は素っ頓狂な声を上げる羽目になった。
傍仕えの社と真吾が八神を狩りに行こうと誘って来たのだ。
寄りによって、庵と待ち合わせている丘で。
断ろうにも社と真吾が揃っている状況で切り抜けることなど無理の一言。
結局強引に連れ出されてしまうだろう。
仕方ない、と内心で舌打ちして京はその誘いに応じることにした。
「それじゃ、見つけたら合図しろよ」
お互い別々の方向へと散って獲物を探し始める。
京は誰より早く草原を駆けぬけ、クヌギ林を抜けて金木犀の木の下へと急いだ。
「庵!」
そこに佇んでいた山羊の姿に京はほっと息をつき、そして気を抜くな、と自分を叱責する。
「庵、マズイ事になった。ウチのバカどもが狩りをやるなんて言い出した。悪ィけど、今日の所は無しにしてくれ」
事態をすぐさま飲み込んだ庵は小さく頷き、そして京の先導で林を抜けていく。
「このまま真っ直ぐ行った先にこれくらいの石が三つ、三角形に落ちてる所がある。そこを右に曲がって只管真っ直ぐ行け。そうすれば八神の丘に出れる」
他の狼の気配が近付いてくる感覚に、京は慌てて説明すると「それじゃ、ほんとゴメン!」と片手を上げて草原へと駆けて行ってしまった。
庵はその後姿を見送ってから踵を返し、静かに林の中を突き進んでいった。


その日の夜。
「ああもう災難だったわ!」
狼から逃れ、何とか帰って来たマチュアが乱れた髪を整えながら「そうだわ!」と声を上げた。
「そうよ、そうだわ!!」
「何だ、さっきから煩いぞ」
バイスがウンザリした口調で問うと、マチュアは「見たのよ」とバイスに詰め寄る。
「庵が居たのよ、あの丘に」
「庵が?」
そう、とマチュアは頷き、そして辺りを見まわしてから声を潜めて告げた。
「狼と、しかも寄りによって草薙京と一緒だったのよ」

 

 

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